春秋

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2019/8/14付
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小笠原近海でとぐろを巻いていた台風は、やおら鎌首をもたげ、九州めがけて牙をむきそうだ――。昭和時代の新聞の気象記事を振り返ると、大げさな表現が目立つ。「鎌首をもたげる」とは、台風の進路が変わる場所を意味した。気象用語でいう「転向点」のことだ。

▼熱帯の海上で生まれた台風は、上空の風に流されて動く。貿易風で西寄りに進んだ後、偏西風の影響で北や東に進路を変え、日本列島をうかがう。この転向点の見極めが予報の要だ。超大型の台風10号はきょう、鎌首を北寄りに向け西日本に迫る。お盆のさなかだ。Uターンの足の乱れはもちろん、人的被害が懸念される。

▼気象庁は今春から台風予報の精度を上げた。ご存じだったか。これまで3日先まで発表していた中心気圧や最大瞬間風速など、台風の強度に関する予報を、5日先にまで延長したのだ。スーパーコンピューターの計算能力向上の恩恵である。台風10号の大まかな進路や、勢力の情報は、先週末の9日の時点で分かっていた。

▼私たちは技術の進歩を生かし、旅程を変更する勇気や、決断力を持ち得ただろうか。各交通機関の予約システムやソーシャルメディアでの人びとの投稿などを分析し、「5日先予報」の効果のほどを検証できないか。メディアが台風を毒蛇にたとえ、備えを促した時代は遠い。個人の情報活用力が問われる令和の夏である。

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