核のごみ処分、現れぬ候補地 国際会議、海外事例に学べるか
Earth新潮流

2019/8/9付
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原子力発電所の使用済み核燃料から出る核のごみ(高レベル放射性廃棄物)の処分地をどう決めるか。政府が最初のステップとして処分の有望地を示した「科学的特性マップ」を公表して2年たったが、誘致を表明した自治体はなく、状況は進展していない。

核のごみ処分は多くの原発保有国で難航。日本政府は10月に国際会議を開き、海外の事例から学ぶ考えだが、展望は開けるのか。

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原子力発電環境整備機構(NUMO)は全国各地で説明会を開いている(5月26日、鹿児島県霧島市)=同機構提供

原子力発電環境整備機構(NUMO)は全国各地で説明会を開いている(5月26日、鹿児島県霧島市)=同機構提供

「この1年半で全国70都市近くで説明会を開いて回り、処分の必要性について市民の理解は深まった。だが自治体が手を挙げるにはなおハードルが高いようだ」。核のごみ処分の事業主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)の担当者はこう話す。

高レベル廃棄物は使用済み核燃料からプルトニウムなどを取り出した後に生じる放射能の極めて高い廃棄物だ。ガラスで固めた後、金属製の容器に収めて地下300メートルより深くに埋め、放射線が弱まるまで数万年にわたり貯蔵する。

NUMOは電力各社の出資で2000年に設立後、公募で処分地選びに乗り出した。

07年に高知県東洋町が調査に応募したが撤回。11年に東京電力福島第1原発事故が起きると、反原発陣営から「核のごみ処分を先送りして原発を再稼働すべきでない」と批判が強まった。政府は15年、電力会社任せの姿勢を転換し「国が前に出る」と約束した。

その第1弾として、資源エネルギー庁が17年7月に公表したのが科学的特性マップだ。

資源エネ庁が公表した核のごみ最終処分場の科学的特性マップ

資源エネ庁が公表した核のごみ最終処分場の科学的特性マップ

マップでは断層や火山の近くや、資源採掘の可能性がある油田・ガス田の周辺を不適格として除外。地層や地下水が安定している地域を「緑」で示し、特に海岸から20キロメートル圏内は輸送やテロ対策が容易として、さらに有望な地域とした。

その結果、国土面積の約3割、市町村数で約900が「好ましい条件」に該当。「1、2年内に名乗りを上げる自治体が出る」(NUMO首脳)と期待も膨らんだ。

だが、これまでのところ期待は裏切られている。NUMOはマップ公表直後から各地で説明会を始めたが、17年秋、学生に謝金を出して参加を求めていた問題が発覚。運営を見直し、県庁所在地などでの開催は一巡したが、住民の理解が進んだとはいえない。

懸念がなお強いのが安全性の問題だ。「放射性物質が外部に漏れて周辺を汚染するのでは?」といった不安は根強く、NUMOがアンケートで「安全に処分できると思うか」と聞くと、「そう思わない」が3~4割を占めている。

誘致の見返りに経済・財政的な支援を受けることを「適当」と思わない人も2割近くいる。これまで原子力施設では政府が手厚い交付金を出して地元の理解を取り付けてきたが、同じ方式は通用しないように見える。

膠着状態は打開できるのか。

政府が期待を寄せるのが10月中旬にパリで開く「高レベル廃棄物最終処分に関する円卓会議」だ。今年6月、長野県軽井沢町で開いた20カ国・地域(G20)エネルギー・環境相会合で日本が提案し、採択文書に盛り込まれた。

G20では少なくとも13カ国が核のごみ処分問題を抱えている。しかし、これまで各国が意見交換する場がなかった。

円卓会議でまずめざすのは、既に処分地が決まったフィンランドなどの先行事例の共有だ。

フィンランドは01年に南西部オルキルオトのオンカロを処分地に決め、15年に建設に着手した。事業者は1980年代、自治体を特定しない形で広域の候補地を示し、20年近くかけて処分地を絞り込んだ。

スウェーデンも09年に南部のフォルスマルクを候補地に選んだ。当初は日本と同様、公募方式を採ったが、事業者が地点を特定する方式に変更。フランスも候補地を北東部のビュールに絞り込むところまで進んだ。

日本が科学的特性マップを示したのも、これらの国を踏襲している。資源エネルギー庁の担当者は「今後は進捗状況が日本と同程度の国も参考にしたい」と話す。

ひとつがスイスだ。事業者が複数の「候補エリア」を提案し、地元の意見を聞き「候補サイト」を絞る。その間は時間をかけて丁寧に進める。最初からサイトを特定すると反発が予想されるため、まず広域のエリアを示して合意の素地をつくることを狙っている。

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とはいえ、海外事例を日本に生かせるかどうかは不透明だ。中央政府と地方自治体の役割は国によって異なり、フランスのように中央集権的な国もあれば、スイスのように直接民主制の国もある。地元の理解を得る「正解」はひとつではない。

むしろ日本では「人口減少」や「地域の存続」がキーワードになるのかもしれない。

元総務相の増田寛也氏は13~16年、核のごみ処分の進め方を検討する経済産業省の有識者会議の委員長を務めた。増田氏は当時から、「人口減少で多くの自治体が消滅の危機に直面するなか、原子力施設との共生を積極的に考える自治体があってよい」とみていた。

原発の多くは高度経済成長期に立地が決まり、産業のない地域が周囲から取り残されるのを恐れて建設を受け入れた。しかし、今後はもっと前向きに、原子力施設の誘致を地域の生き残りに役立てる自治体が出てきてほしい、との期待だ。

こうした自治体が現れた場合、地元の意向にどのように応えていくのか。政府と電力会社は科学的特性マップに次ぐ一手を示すときが来ている。

(編集委員 久保田啓介)

[日経産業新聞2019年8月9日付]

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