才能ある人材扱う心構え
新風シリコンバレー コア・ベンチャーズ・グループジェネラルパートナー ジョアナ・ドレイク氏
アジア企業が欧米市場への進出拡大を試みる波がここ30年の間に何度かあった。これらの企業は、自国の市場では主導的立場にあり、欧米の大規模市場でも同様の立場に立つことを目指し、最初に進出するのは多くの場合は米国市場だ。

私が見てきたところでは、米国市場でスピード感を持って成功を試みる日本企業が独力で成功することはほとんどない。究極的には現地パートナーとなる受け入れ先の米企業を見つけるのが合理的なアプローチになっている。「グローバルになろう」と臨む段階で、米国市場に挑む第一歩として買収戦略を前向きにためらわず追求したビジネスリーダーらを私は称賛する。
買収後の職場には、それぞれの文化のベストプラクティスは一目瞭然だろう。例えば日本人と一緒に働く米国人は、名刺交換や、事前合意取得の方法としての根回しを学ぶ必要がある。日本人側は、会議では常に自身の見解を明確に主張しなければならない。また会社で直接接する時間よりも、社外の人的ネットワークこそが重要という米国の流儀に慣れる必要がある。
しかし、もっと根源的でもっと理解されにくいのが人材についての考え方の違いだ。今日のナレッジ・カンパニーでは人的資源は会社の最も貴重な資産だと考えられている。
才能が最終的に生み出す知的財産が、優れたスタートアップにとっても巨大テクノロジー企業にとっても防御力の高い堀のような存在であるならば、才能ある人材を獲得しかかわりを深め彼らに会社にとどまってもらうことが会社にとって不可欠な能力だ。管理職が最優先すべき責務は、社員と関わり彼らを会社に引き留めておくことだ。
シリコンバレーのように競争の激しい市場でトップ級の大学の出身者や引く手あまたの専門家が転職を考える時、彼らはとても慎重に次の職場を選ぶ。彼らはそれぞれの機会をふるいにかけ、ワクワクするような働きがい、さまざまな企業価値などを探し求める。もちろん他社に引けを取らない給与や株式報酬などは当然として求めてくる。
米国では、社員は勤務先企業がなぜその事業を行っているのか、どうやってマーケットシェアを伸ばしていくのか、個々の社員のどんな貢献が会社の成功につながるのかを知りたがる。
これに対して日本では最も優秀な人々のグループにおいても、社員は会社に身をささげることを期待され、ある役割やたまたま上にいる上司を受け入れることを要求され、「会社のためなら何でもやる」という心構えに適応させられる。その結果、ワークライフバランスが崩れてしまう。
企業が米国で成功するには、米国の文化や才能に関する規範を認識しそれを大切にする心構えが必要だ。こう言うと米国人管理職やそのチームは、権利ばかりを主張する「わがままっ子」だらけだと思われるかもしれない。しかし、若い知識労働者の数が減る日本のような国が欧米で成功し成長するには、このような考え方は日本での成功にもきっと活用できるだろう。
[日経産業新聞2019年8月6日付]