2019年9月18日(水)

金融主導の気候変動対策 情報開示「良い投資」に期待
Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

コラム(ビジネス)
2019/8/2付
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2030年目標の強化と50年目標への戦略を議論する20年のCOP26(気候変動枠組み条約第26回締約国会合)を目指し、日本を含め各国で戦略や政策の準備が進む。各国、各産業の利害対立もあり歩みは早いとは言えない。こうした中、注目されるのが規制によらない取り組み、特に金融の活用だ。

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様々な取り組みの中で老舗と言えるのが、00年に英国で設立されたNPO、CDPによる企業の排出量の開示だ。質問状の回答に基づく格付けも行うが、今や良い格付けを得るための手伝いをコンサルがビジネス展開するほどの存在感となっている。

「グリーンボンド」「サステイナブルファイナンス」など名前は様々だが、「良い投資」をリスト化、選別的に支援しようという活動も見逃せない。

当初は太陽光発電など誰の目にも明らかなものだけが対象だったが、評価方法が複雑な省エネや廃棄物など総合的な判断が必要な原子力発電なども評価対象に加えている。

他方で、石炭など化石燃料資源への投資はいずれ「座礁資産」になると警告し、リスク資産からの投資ひきあげ(ダイベストメント)を提案する運動もある。企業名を特定したリポートもあり、その中には日本企業の名前もあった。

日本で最も影響力が大きいのはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)だ。二酸化炭素(CO2)排出コストの上昇で、投資が不良資産化したり、さらには不十分なリスク管理が招いたリーマン・ショックのように金融市場全体の混乱を招いたりするのではないかとの金融当局の危機感が発端となっている。排出情報の開示にとどまらず経営へのインパクト分析や企業戦略の開示の必要性を提言している。

いずれの取り組みも、公平性や全体バランスから慎重にならざるを得ない政府による規制を補うため、市場の判断に期待した活動であり、基本となるのは情報開示だ。

求められる情報開示は次第に詳細な内容に、また企業戦略の説明を求めるなど範囲も広がってきている。そして影響力が増したことで政府との距離感が変わり、排出量など客観的な事実関係の情報開示から「良い投資」の判断基準を重視する動きが強まるなど新しい段階に入ろうとしている。

先行する欧州連合(EU)は6月、グリーンボンド基準と参照すべきタクソノミーを発表。EUが考える「良い投資」の判断基準を示している。 温暖化ガスの削減に加えて、気候変動への適応、水の利用、循環経済、汚染対策、エコシステムと6つの切り口を設定。67の事業分野で数値基準や参照すべきEU指令など細かく要件を定めた。

EUは「規制ではない」と説明するものの、補助金を活用し「良い投資」とそれ以外の投資の二分化を推進する計画であり、規制に近い効果がありそうだ。

日本に大きな影響を与えそうなのが国際標準化機構(ISO)。世界貿易機関(WTO)加盟国が規格を作る際には基礎とすることが義務化されており、影響力はこれまでとは次元が異なる。

ISOでは電力、産業、交通など21分野を対象にしたグリーンボンドのための基準が検討され、さらに範囲を気候変動以外にも広げ、また対象を債券に限らずファイナンス全般に広げたサステイナブルファイナンスの国際標準の検討も始まった。

これは英国の提案だが、一帯一路などを通じて中国基準の国際的な普及を目指す中国も後押ししているし、EUも自らのタクソノミーの利用を働きかけるだろう。

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金融を通じた自主的な取り組みが政策へと発展するのは効力の点からは良い方向だし、EUタクソノミー検討の中心メンバーが指摘するように、技術やエネルギーになじみのない投資家はわかりやすい基準を求めているだろう。国際的な規格は個別技術のみならず産業の将来も左右する。日本企業には積極的に参加しない理由はない。

「良い投資」「良い技術」を誰が、どのような場で検討し、決めるのかが方針を考えるにあたってのポイントになる。

EUのタキソノミーでは、自動車の場合、本年4月にEUで合意された二酸化炭素(CO2)排出基準を上回る厳しい水準が要求されている。

規制は最低限の要求であるからタクソノミーでそれ以上の水準を求めるのはおかしなことはないが、2つの政策がバラバラだとメーカーは困惑するだろうし、要求水準が高すぎれば誰もついていけない。分野別に行われている検討を尊重すべきだろう。

国境を越えた分野ごとの基準作りを日本主導で積極的に推進してはどうか。分野別の検討と金融の取り組みがバランス良く進み、金融で求めるものが少し先行するような間合いが実効性ある仕組みには欠かせない。

またEUや中国に対抗し、日本に有利な基準を提案するのも一つのやり方だろう。しかし、細かすぎたり、我田引水の基準はイノベーションを阻害する。例えば、自動車の低炭素化にはEVや燃料電池車などがあり、技術の選択肢は一つではない。多様なアプローチを認めることで多くの企業が目標に向かって競争できる環境をつくることを基本原則として主張してはどうだろうか。少なくとも同じ分野で複数の企業が競いあっている日本の実情にはふさわしい。

もう一つ大事なのは投資家と産業の対話。目標に向っての道筋は一つではなく、会社ごとにそれぞれ技術や移行のための独自の戦略があるからだ。また特定の投資家にだけ詳しく話すのは不公平であり、金融市場のルールで禁止されている。企業や産業の個性の違いに配慮し、かつ広範な情報開示が対話条件だ。

良い投資のルール作りには、競争環境、現場尊重、情報開示の3つの原則を打ち出してはどうだろうか。

[日経産業新聞2019年8月2日付]

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