2019年9月24日(火)

揺らぐファクト 世界への問いはデータ重視で
奔流eビジネス(アジャイルメディア・ネットワークアンバサダー 徳力基彦氏)

コラム(ビジネス)
2019/8/2付
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NIKKEI MJ

1月に出版された書籍「ファクトフルネス」が売れている。データや事実に基づき世界を読み解く姿勢や習慣を呼びかける内容で、データに関する伝説のプレゼンテーションでも有名なハンス・ロスリング氏が書いた書籍だ。

共著者のアンナ・ロスリング氏(中)の来日により「ファクトフルネス」への関心が改めて高まっている(7月11日、東京都千代田区)

共著者のアンナ・ロスリング氏(中)の来日により「ファクトフルネス」への関心が改めて高まっている(7月11日、東京都千代田区)

本が売れないと言われる中で、データをテーマにした400ページの分厚いビジネス書が40万部も売れるのは異例だ。7月には共著者のアンナ・ロスリング氏が来日し、さらに注目が高まっている。

書籍では、人間が陥りがちな勘違いを人間が持つ本能に基づいて解説している。

例えば、人間は何か悪いことがおきると犯人捜しを始め、脳は考えを止める。また、良いニュースより悪いニュースに反応するので、悪いニュースの方が広まりやすい。

ソーシャルメディアでは昨今、悪いニュースがきっかけで激しく批判が集まって炎上したり、1度悪いことをした人がいつまでもたたかれたりする。人間の本能が技術によって悪い方向に強化された現象と言えるだろう。

政治の世界でも、トランプ米大統領が大手メディアをフェイクニュースと批判している。自分とは考え方が違うメディアをフェイクと呼んだり、データを見れば明らかな虚偽をオルタナティブファクトと呼んでみたりと、ファクトが揺らいでいる。

さらに技術の進化により、ディープフェイクと呼ぶにせもの動画の問題が注目されている。人工知能(AI)を駆使して、いまや本物そっくりの偽動画を捏造(ねつぞう)できる。私たちが捏造動画にだまされて、知らないうちに誰かの人生を台なしにすることに加担してしまう未来が、すぐそこに来ているのだ。

フェイクに対抗する上で重要なのが、ファクトフルネスな姿勢なのは間違いない。こんな時代だからこそ、希望の光として多くの人に受け止められているのだろう。

とくりき・もとひこ 名大法卒。NTTを経て06年アジャイルメディア・ネットワーク設立に参画、09年社長。19年7月からはアンバサダープログラムの啓発活動とnoteプロデューサーとしての活動に従事。

とくりき・もとひこ 名大法卒。NTTを経て06年アジャイルメディア・ネットワーク設立に参画、09年社長。19年7月からはアンバサダープログラムの啓発活動とnoteプロデューサーとしての活動に従事。

書籍を読んで非常に印象的だったのが、ハンス氏がこうした姿勢に到達するきっかけの1つとなった取り返しのつかない失敗だ。

モザンビークの貧しい村で医師として働いていたとき、原因不明の病に直面し焦って判断を誤り、人命が失われる経験をする。ハンス氏は亡くなるまでその時の自分を許すことができなかったそうだ。

この時、雰囲気にのまれて焦って判断するのではなく、データに基づき冷静に判断できれば、尊い命が失われずに済んだのではないか。後悔の念がハンス氏のファクトフルネスな姿勢の背景にあった。

筆者は幸運にもアンナ氏に話を聞く機会に恵まれた。ハンス氏は末期がんを宣告されてこの書籍を書くために自分の過去をひもとくまで、35年間誰にもこの失敗を明かさなかったそうだ。アンナ氏は「あまりにもつらい経験だったからこそ話せなかったのだろう」と話していた。

幸い私たちは、ハンス氏のようなつらい経験をする前に、この書籍からファクトフルネスな姿勢を身に付けられる。読んでいない方はぜひ書店で手に取ってほしい。ファクトフルネスな人が増えることで、少しだけ未来は良い方向に変えられるはずだ。

[日経MJ2019年8月2日付]

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