2019年9月19日(木)

春秋

2019/7/27付
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東宮御所や帝国劇場を設計した谷口吉郎は、多くの記念碑のデザインを手がけたことで知られる。子息も建築家の吉生氏で、親子の功績をたたえ、昨日オープンした「金沢建築館」にずらり写真が展示されていた。第1号は1947年の作家、徳田秋声の文学碑である。

▼その後、79年に世を去るまで、島崎藤村の墓所、佐藤春夫や森鴎外の詩碑など各地で名だたる人にまつわるモニュメントに携わった。「過去」や「記憶」を巡り、鋭敏な感性を持っていたらしく、文人や画家が筆を供養する「筆塚」の例を引き「形見の造形は、機能を乗りこえて『いのち』を発する」との文を残している。

▼先の大戦の犠牲者を慰霊する建造物も重要な作品だ。六角形の屋根に覆われて花が絶えない東京の千鳥ケ淵戦没者墓苑、さらに日本兵2万人以上が戦死した硫黄島の碑に、2016年、当時の天皇・皇后両陛下が訪れたフィリピン・ルソン島の比島戦没者の碑などだ。今年もせみ時雨や強い日差しに戦争を思う季節である。

▼ふだんは黙したままのいしぶみだが、真摯に向き合い、額(ぬか)ずけば、戦いの無謀さや悲惨を雄弁に物語ってくれるはずだ。それが谷口のいう造形の「いのち」なのでもあろう。自国第一や大衆迎合主義が新たな常識になりつつある世界の中で「いのち」との交感は軽んじられ始めてはいないか。令和最初の夏に不安がよぎる。

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