春秋
1964年の東京五輪のとき、官民挙げての清掃キャンペーンが繰り広げられた。「首都美化はオリンピックの一種目」。こんな標語のもと、みんなせっせと道路を掃き、ごみ拾いに励んだという。横町の暮らしにもいろいろ影響を与えた、悲願の国家イベントである。
▼東京のいたるところでビルや道路の突貫工事が進み、江戸以来の面影を失っていったのもこのころだ。関東大震災でも戦災でも生き残った風物が、オリンピックで完全に消滅したといわれる。どうやら五輪というものは、日本人をどっと一方向に駆り立てるらしい。こんどの大会もそういう威力を多分に受け継いでいよう。
▼開幕まで、ちょうどあと1年。将来の負担は横に置き、やはり突貫工事で造った競技場などは完成間近だ。さあいよいよ本番。となれば、これからは交通規制だ、警備だとさまざまな協力が都民、国民に求められるに違いない。祭典を成功させたいのはやまやまだが、五輪を錦の御旗みたいに掲げた無理無体は勘弁願おう。
▼そもそもこのイベントはとても図体が大きいから、人々の我慢なしには開けない。それでも前回のような時代ならともかく、令和の日本は成熟国家である。なるべく自然体でことを運んでほしいものだ。「首都美化」は往時とは比べられぬほど進んだ。いま必要なのは、オープンでスマートな大会運営の美しさではないか。
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