春秋

2019/7/13付
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「深く反省し、心からおわび申し上げる」――。ハンセン病の元患者らの家族が受けてきた深刻な差別。その苦難に対する国の賠償責任を認めた熊本地裁判決への控訴を政府は見送り、きのう、謝罪の言葉を盛った安倍首相談話を出した。なかなかできる決断ではない。

▼などと褒めちぎりたいところだが、わび状にはややこしい証文が付いている。判決の問題点をいろいろと指摘した政府声明だ。いわく「偏見差別除去のための行政庁の裁量を極端に狭くとらえている」「国会議員の立法不作為の判断が判例に反する」「消滅時効の起算点を誤っている」。首相談話とともに閣議決定された。

▼はて面妖な。控訴を断念し、深々と頭を下げながら、判決自体はこてんぱんにやっつけているわけである。反省やおわびの「情」を色濃くただよわせつつ、「理」は別にありというダブルスタンダードではないか。判決確定で患者や家族が救われるのはたしかだ。法整備も進むだろう。しかし、引っかかるものは拭えない。

▼もともと政府内には、こんどの声明のような理屈をたてに、控訴すべしの声も強かったとされる。政治決断がそういう法律論を制したに違いない。それでもなお、こんな長々とした証文付きになったのを見ると、複雑な経緯がうかがわれるのだ。もし選挙中でなかったら……という臆測がまた、世間に飛びかうことになる。

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