2019年7月17日(水)

春秋

春秋
2019/7/12付
保存
共有
印刷
その他

多感な10代に、原子爆弾の惨禍に遭った少年少女らは、その後、どんな人生を送ったのか。米ジャーナリストが12年をかけてまとめたノンフィクション「ナガサキ」の日本語訳が刊行された。筆舌に尽くしがたい凄惨な現実から立ち上がった人間像の数々に頭が下がる。

▼長く「語り部」として各地を巡り、9年前に78歳で亡くなった吉田勝二さんの逸話には心を揺さぶられた。顔面などに大やけどを負い、痕が残った。周囲の視線に耐え、一歩ずつ社会復帰を果たし、結婚して2児の父親となる。小学校の運動会のお昼時。次男の友だちが言った。「おまえの父ちゃんは恐ろしか顔しとんね」

▼吉田さんは一瞬「来なければよかった」と後悔したという。しかし、次男はすぐに毅然と言い返したそうだ。「父ちゃんは原爆に遭(お)うたんたい。なんも怖いことはなか!」。「息子の言葉に救われました」と吉田さんは振り返る。そして、常々こうも語っていたと聞く。「平和の原点は、人の痛みがわかる心をもつことだ」

▼被爆から74回目の夏が来る。核を駆け引きの材料にしようとする国々の動きはやむ気配はない。「最終兵器」を手にした時代の宿命だろうか。そんな中でも死の恐怖や偏見を越え、体験を語り続けた姿に希望を見る。有志連合の語もにわかに飛び出したが、平和への地道な訴えこそ重い責務であることを忘れてはなるまい。

保存
共有
印刷
その他

関連キーワード

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。