観光産業、革新への期待
SmartTimes 東京農工大学教授 伊藤伸氏

2019/7/12付
保存
共有
印刷
その他

まもなく本格的な夏のレジャーシーズンだ。国内の観光関連産業は順調に拡大を続けている。観光庁の観光白書によると国内の旅行消費額は2018年で26兆1000億円と、災害が相次いだにもかかわらず12年と比べて約2割も多い。主役は訪日外国人旅行者。旅行消費額に占める割合は12年の5%から18年には17%へ急拡大した。国内観光地での実感とも一致する。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー株式会社設立とともに社長に就任(現任)。2013年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー株式会社設立とともに社長に就任(現任)。2013年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

一方で、日本人の国内旅行は伸び悩んでいる。18年の1人当たり国内宿泊観光旅行回数は平均1.3回、宿泊数は2.1泊にすぎない。国内旅行消費額もドイツや英国といった欧米諸国と比べて低い。訪日外国人観光客の増加はアジア諸国の経済発展に伴う所得向上が原動力であり、国内の観光関連産業が新たなサービスの提供で潜在的な顧客を呼び込むには課題が残されているといえそうだ。

そうした中、このところ盛り上がっているのがキャンプを中心としたアウトドアレジャーである。手間のかからない豪華キャンプの「グランピング」が広がり、大型のキャンプ用品専門店の出店も相次いでいる。女子高生が思い思いにキャンプを楽しむ姿を描いたアニメ「ゆるキャン△」の影響もあって、厳冬期の1人キャンプという従来なら考えつかなかった消費行動も珍しくなくなった。

観光関連をはじめとする国内のサービス業については、製造業と比べて低い労働生産性が課題だと指摘されてきた。人的な要素が強いサービス業では、イノベーションを志向した経営が強調されることも少なかった。製造業における斬新な新製品開発であるプロダクト・イノベーションや生産工程を革新するプロセス・イノベーションと異なり、サービス業では新たな経営手法や技術の導入によるイノベーションを描写しにくい事情もあっただろう。

その分、サービス業の生産性を引き上げるイノベーションを実現するためには顧客との関係構築や組織設計、技術導入など、これまで製造業などで蓄積した経営に関する専門的な知見を活用する余地が大きい。

厳冬期の1人キャンプは所有を重視する「モノづくり」から体験に価値を見いだす「コトづくり」への潮流の一例と理解できる。国内有数の観光地に立地する京都大学や北海道大学、琉球大学が観光を名称に含む学部や大学院を持つのも、今後の観光関連産業の発展には専門人材の育成が必須との認識からであろう。

国内のサービス業就業者は全体の約7割を占める。経済が発展するにつれてサービス業の比率が上昇していくのは世界的な傾向だ。観光関連産業には宿泊や乗車券の予約システムをはじめ、長らく情報技術を活用してきた歴史もある。

ソーシャルメディアなどの活用も含め、経営における柔軟で創造的な発想が、さらなる成長にとって重要となるだろう。

[日経産業新聞2019年7月12日付]

日経電子版が最長2月末まで無料!
初割は1/24締切!無料期間中の解約OK!

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]