ピクシブ、1年で3割成長 「神絵師」誕生に匿名性も支え
読み解き 今コレ!アプリ
「個の時代」「一億総クリエーター時代」といった言葉が叫ばれるなか、象徴するようなプラットフォームが独自の成長を遂げている。

フラー(千葉県柏市)のアプリ分析ツール「AppApe(アップエイプ)」によると、ピクシブ(東京・渋谷)のイラストコミュニケーションサービス、pixiv(ピクシブ)の月間利用者数(MAU、アンドロイドとiOSを合算)が1年で32%の成長を遂げていることがわかった。2018年6月は155万人だったのに対し、今年6月には205万人にまで増えている。
ユーザー層にも特徴がある。メインは10~20代で、足元では77%を占めた。この比率はインスタグラムと比べても35ポイント高い。
また、ピクシブと同時に所持しているアプリを調べたところ、同社が運営する同人グッズ販売のBOOTH(ブース)や、イラストレーター向けに人体のポーズを3次元で表現するイージーポーザーなどが挙がった。若いクリエーターが多く集まるプラットフォームとなっている。
若者からの人気が高い理由は2つ考えられる。

1つ目は、ピクシブの創作活動が世に広まる事例が多数出てきたことだ。例えば、「ヲタクに恋は難しい」というコミックは14年からピクシブに投稿されていた作品で、17年にWebマンガ総選挙の一般部門で1位を獲得し、18年にはフジテレビ系列でアニメになった。成功事例はクリエーターを目指す若年層にとって良い刺激となる。
また、バーチャルユーチューバー(Vチューバー)向けにイラストを提供した場合、生みの親の意味を込めてイラストレーターが「ママ」と呼ばれる文化も生まれた。人気Vチューバーのキズナアイの「ママ」である森倉円氏は丸井グループのテレビコマーシャルも手がけるようになった。人気クリエーターは「神絵師」と呼ばれ、商業作品への起用も増えている。
2つ目は、匿名・ペンネーム文化との適応性だ。ピクシブが扱っている作品はイラスト、漫画、小説の3種類である。共通するのは、容姿や声といった自らの身体性が表現に反映されないことだ。
創作生活と日常生活を切り離して考えたい人や、家族や学校、会社の友人に知られたくない人々にとって「身バレのリスクが減る」大きなアドバンテージとなる。自分の容姿を出すことが多いユーチューブや生活を切り取るインスタグラムとはまた違ったコミュニティーが形成される。
SNSを活用した個人の創作活動を、匿名性を維持しながら広げられる。この独自性がピクシブの成長を支えている。今後、仮想現実(VR)が広がるにつれ、自らの身体性が仮想化されていく。映画「レディ・プレイヤー1」のような世界で飛び交うのは、ピクシブの神絵師たちが生み出したキャラクターなのかもしれない。
[日経MJ2019年7月10日付]関連企業・業界