2019年9月20日(金)

春秋

2019/7/7付
保存
共有
印刷
その他

この種の雑誌を手にニヤリ笑えるとは思わなかった。文芸誌「文学界」8月号に載った村上春樹さんの短編「ヤクルト・スワローズ詩集」が面白い。「それは1968年のことだった」とあって、前身の時代から、この球団と本拠地の神宮球場に寄せてきた思いを語る。

▼人生訓も得たようだ。初めてチームがリーグ優勝したのは78年。それより前の「ほとんど天文学的な数の負け試合」に村上さんは、人生の本当の知恵は「どのようにうまく負けるか」というところにあると気付いたらしい。選手らへの熱は、世界的な作家らしからぬストレートすぎる詩情となって作品に活気を呼んでいる。

▼しかし、このニュースを聞けば、村上さんも眉を曇らすかもしれない。今後、プロ球界の裾野が広がるのか否かに関する重大事である。全国の高校の野球部員の数は5月末時点で約14万4千人。ピークの5年前から2万人超も減ったという。少子化や競技の多様化に加えて、厳しい練習や勝利至上主義を嫌う向きもあろう。

▼ひいき同士が緩やかな連帯感に包まれ、投打のプロの真剣勝負に酔う。接戦やら逆転劇に自らの過去や未来を重ね、ファンは長く語り継いだ。そんな独特の「観戦の文化」も衰退の道を歩み出すのだろうか。観客動員が多い今のうちに何らかの手を打たねば、村上さんの「第2詩集」は哀調を帯びたものになるに違いない。

保存
共有
印刷
その他

関連キーワード

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。