雇用制度 ハイブリッドで
SmartTimes グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー 高宮慎一氏
財界人が相次いで終身雇用の維持が難しいという趣旨の発言をするなど、終身雇用や家族主義といった「昭和の日本」を支えた雇用制度が変化のタイミングに差し掛かっている。

スタートアップでは、すでに変化が現実のものとなっている。有名大学からスタートアップやテクノロジー企業に就職するのは普通のことだ。東大生を数十人採用しているような企業もある。昨今の新卒をはじめ若い世代で特徴的なのは、長期雇用による安定や短期の金銭よりも、自己実現や自己成長の機会、仕事を通じた社会への貢献といったインセンティブを重視している点だ。
また、インターンシップやパートタイム、業務委託を経てフルタイムでの就職に至るケースも多い。企業側が一方的に求職者を評価するというよりも、学生側も企業側のビジョンや文化、前述のようなインセンティブを得られるかといった点で企業側をも評価するというイコールな関係になっている。そして、転職を前提として自分のキャリアを主体的に築いていこうという意識が強い。
背景としては、右肩上がりの経済成長の終焉(しゅうえん)が大きいだろう。高度経済成長の下では日本全体が成長して企業も成長し、所属するメンバー全員が経済的に豊かになった。しかし日本の成長が鈍化し、企業ごとの優勝劣敗が分かれてくると、大企業に「就社」しても、経済的豊かさは保証されない。若い世代の幸せの指標は経済的な豊かさよりも、社会への貢献や自己実現に変化しているのだ。
企業側を取り巻く外部環境の変化も大きい。ITから始まったテクノロジーの変化は人工知能(AI)やブロックチェーンなど、さらに大きく非連続な変化をもたらそうとしている。テクノロジーの変化に対応するためには、即戦力で専門性が高い人材の採用が欠かせない。
また、事業の対面市場での競争の激化やグローバル化とともに、経営人材やグローバル人材といったプロフェッショナルの採用も急務となっている。この結果として日本の大企業、グローバル企業、スタートアップの垣根を超えて、激しいグローバル人材獲得競争が起きている。
求職者側のキャリア観の変化に対応し、企業として備えるべき強みを柔軟に組み替えるため、流動的な労働市場へのニーズが高まっている。とはいえ、一朝一夕で労働慣習を変えるのは難しい。単純に米国を模倣して解雇を容易にすればよいということではない。
従来型の雇用制度で長期的にテクノロジーやノウハウを蓄積することを担保し、一方で複業を受け入れる。そして緩やかな形で外部の労働市場とオープンにつながり、多様性を内包した内部労働市場を構築できる。そんなハイブリッド型の制度設計が必要だろう。
[日経産業新聞2019年7月8日付]