2019年8月19日(月)

脱炭素社会へ「公正な移行」 仏デモ教訓、日本も議論を
Earth新潮流 日本総合研究所理事 足達英一郎氏

コラム(ビジネス)
2019/6/28付
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脱炭素社会の実現に向けた「公正な移行」という考え方が、じわじわと欧州から世界に広がってきた。

今世紀半ばに温暖化ガスの排出を実質的にゼロにするという目標に向け、社会経済の変革が加速。それに伴って失業や労働条件の悪化などの懸念は高まる。燃料価格や生活コストの上昇などの副作用に細心の注意を払い、できる限りの対策を講じつつ、脱炭素社会実現を目指すというのが「公正な移行」の意味だ。

温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の前文にも「公正な移行」への言及があるが、この考え方に改めて光が当たったきっかけは、フランスでデモの連鎖を巻き起こした「黄色いベスト運動」だろう。

18年9月、仏政府が19年予算案概要で、炭素税率を引き上げるとしたことが発端だ。19年初からガソリン価格が1リットル当たり3.9セント、ディーゼル燃料価格は7.6セント値上がりすると報道され、毎週末になると蛍光の黄色いベストを着た活動家らがデモを実施した。

脱炭素社会の実現を進める同国では、化石燃料の使用抑制を念頭に、炭素税が一貫して引き上げられてきた。しかし、鉄道やバスなどの公共交通機関は都市部を除けば衰退の一途にある。人々は燃料価格が上がっても、他に代替手段はなく、自動車の利用頻度を抑制することなど不可能だ。

結果、仏政府は低所得者や平均的な所得者の所得税を大幅に削減。年金の増額にも踏み切らざるを得なくなり「脱炭素社会へのつまずき」だとやゆされた。

おそらく、各国の政策担当者や気候変動対策のリーダーたちは、欧州の一連の出来事から多くのことを学んだといえるだろう。

例えば、5月末の欧州議会選挙結果では「極右・民族主義・欧州懐疑主義」系会派(Identity and Democracy)が大きく伸長したと報道されたが、欧州緑グループ・欧州自由連盟が改選前から23議席増やしたという事実もある。同会派は、気候変動を阻止するための税金を、一時金として市民に還元する「炭素税・配当」モデルを肯定する姿勢で得票を伸ばした。

今後の気候変動対策は、炭素利用に対する大幅な増税と「ベーシックインカム(最低所得保障)」の創設を組み合わせる形になるだろうとみる向きもある。翻って日本国内では「移行」そのものに反対する意見が根強く、「公正な移行」という議論にはほとんど至っていないように見える。こうしたギャップが将来に禍根を残すことがないか、甚だ気がかかりである。

[日経産業新聞2019年6月28日付]

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