2019年8月20日(火)

春秋

2019/6/24付
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きょうは戦後歌謡界の巨星、美空ひばりの命日である――と書いても、若者のなかには曲を知らない人が少なくないだろう。亡くなったのは平成が始まった年だった。30年のうちに、この歌姫が体現した昭和の哀歓はすこしずつ記憶から遠のき、世相は軽くなったのだ。

▼そんな具合だから、きょうが命日の、もうひとりの女性のことなどほとんど忘れられているに違いない。ちょうど50年前に自ら命を絶った立命館大の学生、高野悦子である。没後に刊行された手記「二十歳の原点」は1970年代に広く読まれ、ロングセラーになった。書棚にこの本が眠っている人はたくさんおられよう。

▼いま読み返すと、彼女はずいぶん生硬な言葉で自身を追いつめている。学生運動の渦のなかで消耗し、恋に苦しみ、救いを読書や学習に求めて……。あげく「私の敵は独占資本だ」「自らのブルジョア性に向けて叫んだ」などとつづる。時代とはなんと残酷なものか。そのあたりの切なさが胸を打ち、読者をとらえたのだ。

▼最近、手記をもとにした「コミック版 二十歳の原点」が出た。現代の女子大生が69年にタイムスリップし、当時の若者たちに触発されていく話だ。すっかり過去になった物語が、不意に、こんなふうに甦(よみがえ)るのだから不思議なものである。そういえば、たまに美空ひばりを聴くと強烈に胸にしみる。時空を超える力だろう。

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