2019年7月17日(水)

春秋

春秋
2019/6/19付
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「はい、あーんして」「ごっくんしようねー」。病院でいたたまれなくなる光景のひとつは、医師や看護師が高齢者に、赤ちゃん言葉で接している場面である。つい先日も、認知症が進んでいるらしい女性に幼児語を連発するスタッフがいた。見ていて、とてもつらい。

▼悪意はないのだろう。むしろみんな、熱心に仕事をしているはずである。かつて東北地方などでは恍惚(こうこつ)の境地に入った人を「二度童子(わらし)」と呼んだという。人間は年老いて、また子どもに還(かえ)りゆくものなのかもしれない。しかし……。長い人生をひた走り、辛酸をなめ、それぞれに足跡を残してきた人々の尊厳はどこにある。

▼政府がきのう、認知症対策の新たな大綱を閣議決定した。患者が暮らしやすい社会をめざす「共生」と、発症や進行を遅らせる「予防」とを柱にするそうだ。数値目標は批判を浴びたため参考値にとどめたが、予防に役立ちそうな努力を求める雰囲気はなお拭えていない。当初案では「予防」が「共生」よりも上にあった。

▼いかに「共生」を唱えても、まだまだ社会は戸惑い、誰もがたじろいでいる――。むしろ、そんな思いを募らせる大綱であり、あちこちで聞く赤ちゃん言葉なのである。認知症はまさに誰でもかかる。そして症状が進んでも、さまざまな感情は心を離れない。蛇足ながら、かつて身内に患者を持って知らされたことである。

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