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エンジニアが輝く会社に

SmartTimes 社会起業大学学長 田中勇一氏

「エンジニアのための会社をつくる」。エミシス(福岡市)代表取締役である藤木寛人さんの創業当時から変わらない熱い思いは、IT(情報技術)業界のエンジニアの働き方に影響を与えつつある。

ここまでの道は平たんなものではなかった。学生時代は叔父の後継者として税理士を目指したが、勉強に身が入らずに不合格。やむなく就職活動を始めるが、興味のある仕事があるわけでもなく、単に「人の人生に貢献できる」という求人コピーに引かれてシステム会社の新規事業部(派遣部門)に入社した。

しかし派遣の仕事を続けるうちに、年齢が高いエンジニアや技術力の低いエンジニアの仕事がなかなか見つけられない状況に違和感を覚え始めた。そしてエンジニアを抱え、自社でシステム開発する会社をつくりたいと思うようになる。

退職して知人と新たな会社を立ち上げたが、方向性が合わず離脱する。そんな時期に妻が病気で入院した。子育てしながら人生を見直していたころ、前職で一緒に働いていた仲間から「独立したらついていきます」の一言があった。自分が代表として「エンジニアのための会社」を立ち上げることを決意し、2011年に起業した。

会社は着実に成長していった。その過程では「王道経営」という経営哲学を唱える大久保秀夫氏(フォーバル会長)との出会いが会社のあり方を大きく変えたという。目先の売り上げや利益よりも自分たちの強みを理解し、それを磨くことで社会に貢献することを優先するという考え方だ。それが結果として自分たちに返ってくる。

その実践として、本当の意味でエンジニアのための会社を実現するには「エンジニアとして面白い仕事ができること」「エンジニアのキャリアに会社が責任をもつこと」が必要と考えて「120hプロジェクト」を立ち上げた。

このプロジェクトは1日8時間の勤務時間のうち、2時間を新たな技術の習得(自己投資)に充てることができる制度だ。1カ月(約20日)の目標業務時間から、名称が付けられた。

いわゆる働き方改革だ。エンジニアにとって業務負担の軽減につながるだけでなく、新たな技術の習得による事業領域の拡大、さらには社員のモチベーションアップや優秀な人材の採用にもつながる。

もちろん業務2時間分の売り上げが落ちることなど、課題はある。しかし「エンジニアが輝ける会社」にしていくためにこのプロジェクトは必須と考え、試行錯誤しながら定着化を進めている。

持続的に成長していければ会社の発展はゆっくりでも構わない。それ以上にエンジニアの働く環境を優先し、日々努力している藤木さんは社会起業家であり、社中分配を実践する公益資本主義の担い手である。

[日経産業新聞2019年6月17日付]

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