春秋

2019/6/3付
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菊池寛の「形」という短編小説を知っている人は多いだろう。中学校の教科書にも採用された。主人公は、やりの名手として恐れられた豪傑、中村新兵衛。初陣に臨む若武者から懇願されて、猩々緋(しょうじょうひ)の陣羽織と金色の飾りの付いたかぶとを快く貸してあげるという話だ。

▼若武者が一気に敵を突き伏せるさまをみて、新兵衛は自分の「形」だけでも大きな力があることに誇りを感じる。だが普通のよろい、かぶと姿の自身はいつもと勝手が違った。たけり立った敵が押し寄せ、ついには横腹を貫かれる。知らず知らず、実力以上の名声に頼っていた。岩波文庫の解説は虚名への批判を読み取る。

▼形か中身かと聞かれ、中身が大事と言う人は多いだろう。企業でいえば、社外取締役を増やして企業統治の形をつくっても、彼らが取引先などの利害関係者なら経営監視役として疑問符がつく。日産自動車元会長、カルロス・ゴーン被告を巡る事件もあり、今後本格化する株主総会では企業統治の中身が厳しく問われよう。

▼もっとも、この短編の主題を読み解くのは簡単ではない。吉川英治の名を借り菊池本人が書いたという新潮文庫の解説には、「内容も大切だが、『形』も大切だというテーマである」とある。若武者の活躍を考えれば、見た目を軽く考えるわけにもいかない。企業統治も、まずは形をつくらないと始まらないことも確かだ。

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