熱狂マーケティング時代
SmartTimes ネットイヤーグループ社長 石黒不二代氏

2019/5/31付
保存
共有
印刷
その他

「熱狂マーケティング」という手法がある。特定の商品やサービスに熱狂する顧客にアプローチして、彼らの力を借りてマーケティングするものだ。

1994年にスタンフォード大学経営大学院を修了、シリコンバレーでコンサルティング会社を起業。2000年から現職。

1994年にスタンフォード大学経営大学院を修了、シリコンバレーでコンサルティング会社を起業。2000年から現職。

顧客はトライアル顧客から継続顧客、ロイヤル顧客と育成されていく。その上の「熱狂顧客」などいるのかと思うのだが、実現しているブランドは存在し、業績や利益率も好調だ。日本ではヤッホーブルーイングの「よなよなエール」やキャンプ用品の「スノーピーク」などが代表例だ。

熱狂マーケティングを支持する理由は2つある。まずは時代環境だ。1970年代から80年代は人口増加の時代で、新規顧客を取ることが成果だった。それが90年代に入って人口は横ばいとなり、マーケティングの中心は既存顧客に継続的に買ってもらう「顧客育成」の時代に入った。しかし人口減少の今、既存顧客への売り上げ維持だけで業績は支えられない。友人や同僚、家族にも推奨してくれることが重要だ。

2つ目の理由はソーシャルメディアの台頭だ。かつてブランドは企業が作るものだった。技術やデザイン、機能などで他社との違いを打ち出したが、これほどもろい手法はない。技術もデザインも機能も、模倣することは簡単だ。

だからこそ、マーケティングはモノからコト(体験)に移行している。体験を語るのは顧客であり、ブランド側ではない。体験をソーシャルメディアを通じて教えてくれるのは、この熱狂顧客たちなのだ。

一つの例を挙げよう。インスタグラムのハッシュタグでベンツやBMWを検索すると、車が主人公であり、オーナーというよりも車を主体にした投稿が多く見られる。一方でワーゲンで検索すると、車にすら乗っていない写真を投稿している人もいる。

つまり体験そのものを投稿しているのだ。仕様に多少の差こそあれ「車」という分類では同じなのに、ソーシャルの中では、これだけの違いが出ている。ブランドがどのように捉えられているのか、ハッシュタグには顕著に表れている。

インスタグラムの投稿は、自分の体験を人に知らせている推奨と捉えることができる。この推奨は企業にとって、とても重要なマーケティングのヒントとなる。推奨には「なぜなら○○」の文脈がついているからだ。この文脈は、企業が語る技術やデザインや機能の文脈ではない。

顧客が語る体験、まさに企業が知ることのなかった文脈だ。熱狂顧客がなぜ熱狂するのかを自らひもといて、その文脈を他の顧客に伝えていくのだ。

このようなマーケティング環境の変化があるにも関わらず、まだ多くのブランドが新規顧客の獲得や継続購買のためにマーケティング予算のほとんどを使っている。だから私は、その予算の一部を熱狂顧客の分析に使えと推奨したい。

[日経産業新聞2019年5月31日付]

保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]