2019年7月17日(水)

大学研究拠点の意義
SmartTimes 東京農工大学教授 伊藤伸氏

コラム(ビジネス)
2019/5/29付
保存
共有
印刷
その他

多くの大学に特定の目的を持った研究拠点が整備されている。オープンイノベーションの潮流もあって国内では2000年代以降、複数の文部科学省プログラムで研究拠点の創設が後押しされた。大学の研究拠点に統一的な定義はないが、研究者が集積し、従来の研究分野や組織の枠組みを超えた活動が条件だろう。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー株式会社設立とともに社長に就任(現任)。2013年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー株式会社設立とともに社長に就任(現任)。2013年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

研究拠点の役割として知名度の向上はもちろん、高水準の成果の実現がかねて指摘されてきた。集積効果によって研究者間の交流機会が広がり、より創造的な研究につながる。企業との連携や高度な設備の利用も進めやすくなる。

研究拠点を創設する意欲は研究を重視する大学で特に強い。背景には、公的研究資金の大型化をはじめとする競争状況がある。文科省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)のような代表的な事業の採択は、研究型大学である証を学内外に示すことになる。規模が大きくなるだけにマネジメントの専門化は単一研究室の場合とは段違いになる。実際にリサーチ・アドミニストレーターをはじめとする研究マネジメントの専門職が研究拠点には多数配置されている。研究拠点の形成は大学が戦略として取り組む極めて重要な課題になっている。

文科省科学技術・学術政策研究所は17年に主要な国内31大学を対象に、大学の内部組織ごとの論文数を分析した。研究拠点は計134あった。大学を論文数の規模で3グループに分けたところ、規模が最も大きなグループでは研究拠点の論文数シェアは24.6%に達し、他のグループと比べて明確に高かった。

しかも海外研究者との共著論文と産学連携論文については、傾向がさらに顕著に表れた。研究拠点以外は学部や研究科といった縦割りの組織であり、大規模な研究型大学では研究拠点が大きな存在になっている実態が浮かび上がった。

筆者が所属する東京農工大学でも昨年、文科省の事業採択を受けて光融合科学を基盤に早期診断・予防技術を研究開発する拠点を創設した。領域統括である三沢和彦教授の研究成果を実用化した「コヒーレントラマン顕微鏡」という特殊なレーザー顕微鏡を利用すれば、低分子の局所的な分布を生体中で画像化できる。ゲノム情報を活用した医療や生活習慣病や認知症の予兆発見、ワクチン開発、情報技術を利用したがん診断など、広範な応用が見込まれている。

この研究拠点の一つの特徴は、一橋大学がこうした技術の国際標準化実現のための研究機関として参加していることだ。「社会科学的研究との革新的な協働は、過去の自然科学系の研究開発プロジェクトでは見られない新規性と優位性を持つ」(三沢教授)。一段と複雑化する社会的課題に立ち向かう融合知の基盤形成こそが大学研究拠点の本質だろう。

[日経産業新聞2019年5月29日付]

「日経産業新聞」をお手元のデバイスで!

 スタートアップに関する連載や、業種別の最新動向をまとめ読みできる「日経産業新聞」が、PC・スマホ・タブレット全てのデバイスから閲覧できるようになりました。申し込み月無料でご利用いただけます。

 
保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。