2019年7月22日(月)

春秋

2019/5/25付
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「青い山脈」は清潔な「白」で彩られていると、評論家の川本三郎さんが「今ひとたびの戦後日本映画」に書いている。1949年、主題歌とともに大ヒットしたこの作品がうたいあげたのは民主主義の明るさだ。登場人物のまばゆい夏服は、たしかにその象徴だった。

▼伊豆の小都市を舞台に、旧習になずむ面々と新しい風を吹き込む人々とが丁々発止でせめぎ合う……。ヒロインの女学生、新子は後者の代表である。真っ白なセーラー服を身につけ、のびのびと男女交際を楽しみ、みごとなプロポーションの水着姿で海に飛び込む。当時の観客はスクリーンに新時代を実感したに違いない。

▼戦後民主主義の、そんなミューズを演じた杉葉子さんが亡くなった。東宝ニューフェースとしていきなり主役デビューし、その後は多彩な役に挑んだ人である。とはいえ新子の印象はやはり強烈で、映画史に残る伝説だ。昭和、平成を生きて90歳。物語で、個人の尊重を熱く語った先生役の原節子さんも鬼籍に入っている。

▼ひと昔前まで、好きな歌のランキングで「青い山脈」は上位の常連だった。令和のいまはどうだろう。70年たって振り返れば、いささか無邪気に「民主的改革」を説く明るさがこそばゆくもある。しかし、それでも、新子たちを彩った「白」を心に留めたいものだ。映画の遠景にあるのは「黒」――つらかった戦争である。

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