2019年6月16日(日)

春秋

春秋
2019/5/19付
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図書館で全国の地方紙を読むのが好きだ。街角の小さな話題や広告にも、それぞれの土地の歴史や風土が感じられ、興味が尽きない。内外ともに気がめいるようなニュースが多いなか、先日、沖縄の新聞に載った記事がツイッターなどで拡散し、広く共感を集めている。

▼4月下旬、那覇市の高校2年の男子が親類の葬儀で与那国島に帰省しようとモノレールで那覇空港に向かった。が、財布を紛失したことに気づく。途方に暮れていると白髪の男性が声をかけた。事情を聞き、財布から6万円を差し出した。出発時刻が迫る。動揺していた若者は、恩人の名や連絡先を聞きそびれてしまった。

▼「お金を返し、お礼がしたい」。高校生の願いを伝える記事により、その人が埼玉県の60代の医師であることが分かった。母が沖縄出身。那覇市の高校を卒業後、本土の大学医学部に進み、医療の道で活躍しているという。見知らぬ若者に航空運賃をためらいなく与える。同胞に対する信頼だろうか。2人は近く再会する。

▼社会学者の岸政彦さんの著書「はじめての沖縄」の一節を思い出した。私たちは、他人に干渉しない、など世間の規範に縛られがちだ。でも沖縄の人びとは「自分のルールで他人に優しくすることができる」。岸さんはそれを「自治の感覚」と呼ぶ。困難な戦後を生き抜いた体験に根ざす。心温まる記事に島の歴史を思う。

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