2019年6月18日(火)

タイの排出量取引 制度設計、中国が影響も
Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

コラム(ビジネス)
2019/5/10付
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排出量取引と言えば欧州連合(EU)が先進的なように見られるが、アジアでも広がっている。2015年に開始した韓国や、13年に自治体ベースで始まり全国展開が計画されている中国。そして、いま注目したいのがタイだ。

タイでは電力、石油化学、鉄鋼などの10部門を対象にして排出量取引の実験が18年に開始。排出枠のほかタイ独自開発のクレジット「T-VER」や日本とタイが共同で行う国際取引のための「JCMクレジット」などが取引される。タイ政府機関は21年以降に規制化したいとしている。

このほか、京都議定書によるCDM(クリーン開発メカニズム)なども企業の「環境経営」目的などで取引されている。タイの二酸化炭素(CO2)総排出量は約3億トンと日本の3割以下だが、さながら排出量取引の見本市だ。

タイを強力に後押しするのはEUだ。EUが目指すのは排出量取引市場の世界的な統合だ。市場統合は経済、産業、エネルギー、気候変動の各政策の調和が前提になる。EUの最終目標は世界的な経済統合へのリーダーシップとも言える。

経済協力開発機構(OECD)の報告書によると、排出量取引はEUのCO2削減に貢献し、競争条件にも悪影響を与えていない。背景には、自由化された電力市場で炭素コストが競争上重要なことや、製造業で域内企業のシェアが高く域外企業との競争はあまり問題にならなかったことなどEU固有の事情がある。

しかし、国営の電力会社が発電量の4割を占めるタイの電力市場が競争が盛んになるには時間がかかりそう。製造業は東南アジアの他国や日中韓などとの競争にさらされ、タイ企業だけがCO2排出コストを負えば競争力は低下し、海外からの投資も逃げていく。欧州と同じ仕組みは難しい。

こうしたなか存在感を示すのが中国だ。中国の排出量取引はEUの制度をまねて始まったが、産業や技術ごとのエネルギー原単位を削減目標とするなど中国の実態に合わせて改良。タイなど東南アジアの工業国に対して説得力がある。CO2とエネルギーは表裏一体であり、CO2規制は産業政策にもつながる。排出量取引を通じ、産業・エネルギー政策でも中国の影響力が強まる可能性がある。

タイには自動車などの製造拠点が集積し、サプライチェーンでも重要な国だ。エネルギーやインフラ関連の投資も多い。日本企業はアジアを含めたグローバルな視点で低炭素戦略を考える必要がありそうだ。

[日経産業新聞2019年5月10日付]

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