地元復興・大変革 狙う両立
SmartTimes 社会起業大学学長 田中勇一氏

2019/5/8付
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「再生エネルギー事業革命を福島から起こす」。社会起業大学が主催した「ソーシャルビジネスグランプリ2019」で、渡辺千春さんは力強く語った。

1992年住友銀行(現三井住友銀行)入社。新銀行東京とイオン銀行設立に参画後、キャリア支援のリソウルを設立。2010年に社会起業大学を設立。公益資本主義推進協議会副会長。

1992年住友銀行(現三井住友銀行)入社。新銀行東京とイオン銀行設立に参画後、キャリア支援のリソウルを設立。2010年に社会起業大学を設立。公益資本主義推進協議会副会長。

渡辺さんは合同会社SUSKENERGY(福島県南相馬市)を立ち上げ、福島県沿岸部の復興事業として風力発電所の開発と綿づくりに取り組んでいる。

もともとは銀行員で海外MBA留学の経験もあったが、東日本大震災を契機に今の仕事に携わることとなる。福島県二本松市出身で、故郷の復興に貢献したいと勤務していた米ゼネラル・エレクトリック(GE)の転籍制度を活用。GEキャピタルから、福島で再生エネルギー事業に取り組むGEリニューアブルエナジーに転籍した。

まったく畑違いのグループ会社へ移れたのは震災の直前にあたる11年1月に、GEグループのアジア太平洋地区で最も貢献した社員に贈られるMVPを受賞したことも要因の一つだろう。何かに導かれるように地元で再生エネルギー事業に取り組むことなった渡辺さんは、一心不乱に風力発電所の開発に取り組んだ。

風力発電は風が強く人が住んでない山間部地域での導入は進んだが、風が比較的弱く人が住んでいる沿岸部での導入がなかなか進まなかった。最近は技術の進歩により沿岸部の風量でも発電が可能で、事業性も確保できる風車はある。大変なのは住民の了解を取ることだ。

渡辺さんは風力発電所の有用性や社会的意義、さらに風車の下の農地を綿栽培で活用するという付加価値も加えた計画で、粘り強く理解を求めていった。そしてついに開発の了承を得ることに成功した。

いよいよこれからと思った矢先に、共同開発してきた日本企業からストップが入ってしまった。風車の騒音への苦情など、導入後のリスクを総合的に判断した結果のようだった。

意気消沈した渡辺さんが住民に開発中止の報告にいくと「渡辺さん、せっかくよい計画だと思っていたのに止めるのですか」と代表者から言われる。「会社がやらないのなら自分でやるしかない」と勤務先を辞め、起業を決意した。

地域住民や地元メーカーの協力も取り付け、市民ファンド設立の見通しも立ってきた。また風量にかかわらず安定収入を確保できる「長期発電量保証」を担保する保険の開発について、保険会社が理解を示すようになってきた。

そして今進めている事業計画の客観的評価を得ようと応募したソーシャルビジネスグランプリで見事「社会起業家グランプリ」を受賞した。「やはり自分の生き方は間違っていない」と思ったことだろう。地元の復興に貢献しつつ、再生エネルギー事業という大きな変革も生み出す。まさしく公益資本主義の実践者である渡辺さんの今後の活躍に大いに期待したい。

[日経産業新聞2019年5月8日付]

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