春秋

2019/5/4付
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1万円札に描かれている福沢諭吉はお札の「顔」を引き継ぐ渋沢栄一を買っていたようだ。自ら創刊した時事新報の明治26年(1893年)6月11日の記事で、彼が実業の世界であげている実績をたたえている。福沢は58歳。渋沢は53歳で、会社を相次ぎ設立していた。

▼福沢が評価したのは「官尊民卑の気風最も盛なる世の中」にあって、出世もできたであろう官吏の道を辞し、実業に身を投じた渋沢の姿勢だった。後進の実業家の活躍に力を尽くしたことにも好感を抱いている。「実業社会の前途を眺むれば如何(いか)にも多望にして春海の如きものあり」。記事からは民間活力の勢いが伝わる。

▼経営者になる人材を慶応義塾から多数送り出した福沢と、およそ500の会社の設立にかかわった渋沢。浅からぬ縁から新1万円札の肖像を決めたとしたなら、政府もセンスがあるだろう。アベノミクスは7年目だが、景気回復の実感がない人は多い。民間の企業がもっと頑張ってほしい、という安倍政権のメッセージか。

▼気になるのは昨今、政府の企業への口出しが目立つことだ。昨年の夏には菅義偉官房長官が携帯電話の料金設定について発言し、この春は世耕弘成経済産業相がコンビニエンスストア各社に人手不足の解決策づくりを求めた。民の自発的な行動を妨げれば創意工夫の芽を摘む。官尊民卑がまだ残っていなければいいのだが。

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