日本中の猟師と交流、珍しいクジャクも ジビエ新潮流

胃袋の底からジビエを欲する時に訪ねるのが今回紹介するビストロの「サンフォコン」だ。場所は東京メトロと小田急線の代々木上原駅前。多様なジビエを手ごろな価格で食べさせるのが魅力だ。33平方メートル、8席のカウンターを含め16席ながら、月商は約300万円を維持。人手不足でランチ営業を予約制にしているが、フル営業できれば伸びしろはありそうだ。
オーナーの千葉貴大シェフは、白ワインで有名なフランスのロワール地方で修業後、東京・幡ケ谷で開業。その後現在の店に移転した。フランスでは季節ごとに多彩なジビエを使って料理していたが、日本ではイノシシやシカなど、種類が限られることに疑問を感じていた。そこで知り合いを通じて日本中のハンターと交流を持ち、一般には入手が難しいジビエ食材の入手に成功した。
忘れられないのが「カラス」と「アナグマ」。食通の先輩方から「あれはうまい!」と聞いていた。同店で念願かなって両方とも食べることができた。適切な処理がされているので臭みはなく、独特の食感とうまみを心ゆくまで楽しめた。特にカラスは悪食で知られるが、山中で捕獲された山ガラスは木の実などを食べているので味が良いそうで、クロケット仕立てで供された。

クジャク、ヌートリアなど、害獣として駆除されたジビエも食べられる。筆者はこれらを"駆除ジビエ"や"未利用ジビエ"と呼んでいる。ジビエには猟期があるものが多いが、駆除ジビエは通年手に入る。目を向けられなかった害獣を利用することで途切れることなくジビエを提供する。
ジビエはそれぞれクセがあり、仕込みに時間がかかる。同店のキッチンは狭く、処理後の保存が悩みの種だった。それを解決したのが発売されたばかりの「ドロワー(引き出し)型真空包装機」だ。それまで家庭用の真空包装機を使っていたが、「液体をパックできない」「真空が弱い」などの問題があり、使い物にならなかった。
一方、業務用の製品は、サイズが大きくてキッチンには入らない。ドロワー型なら、業務用の機能を備えつつ、サイズは約半分なので設置できた。例えばウサギやカモを使ったパテなどは手間がかかるが、まとめて仕込み、カットして真空包装すれば日持ちがする。
「現在のフランス料理には低温調理から食材の保存まで、真空包装機は欠かせない。コンパクトな製品のおかげでいろんなジビエ料理に挑戦できる」(千葉シェフ)。"害獣"とは人間勝手だが、食べれば"食材"だ。ジビエにはそれぞれストーリーがあり、それを聞きながら食べると、味覚の発見だけでなく、地方が抱える問題が見える。
ランチは完全予約制で3800円から。ディナーは8皿5千円の「ラルクコース」とジビエが入った6660円の「シエルコース」、ふんだんにジビエが入る9999円の「おまかせコース」がある。駆除ジビエは処理後、熟成などの手当が必要なので、在庫を確認し1週間以上前に予約するのが望ましい。
(フードジャーナリスト 鈴木桂水)
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。美味しいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。"美味しい料理のその前"が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出会った産品の販路アドバイスも行う。
[日経MJ 2019年4月26日付]
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