2019年6月17日(月)

春秋

2019/4/24付
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「あす、暗いうちにたつ人は歩くとき、タオルを頭に巻かないで」。10年ほど前、東京の西端、雲取山の一角に立つ「奥多摩小屋」で管理人が冗談を飛ばした。「シカと思われ、撃たれるかもよ」。確かに闇を走るシカは尻の毛が揺れ、人が歩いているようにも見える。

▼水に恵まれた標高1700メートルのこの場所に小屋が立ったのは60年前のこと。食事は出ないが最大100人ほどが宿泊できる。ランプの下、まきストーブの周りでは山をめぐる情報が行き交い、見知らぬハイカーが交流を深めてきた。しかし、建物やトイレの傷みがひどく、先月末で閉鎖されて、取り壊しが決まったという。

▼広々としたテント場も多くの登山者に愛されたが、これも使えなくなった。山梨と長野の県境への長い縦走路から、オアシス兼シェルターが1つなくなったわけである。小屋は都下の奥多摩町の所有だが、運営を担った関係者によると、長年の赤字に加え、トイレの改修に多額のお金がかかることがネックになったようだ。

▼下界でも高度成長期の道路や橋といったインフラの老朽化が課題だ。メンテナンスには今後30年で百数十兆円との国の試算もあるらしい。財政難で税金の投入は簡単でなく、利用者の応分の負担も限度があろう。親しまれた山小屋の消滅は一抹の寂しさをもたらすとともに、近未来のインフラの姿を示唆するようでもある。

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