2019年5月21日(火)

春秋

2019/4/17付
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「金閣寺全焼す」「国宝・古美術品灰燼(かいじん)」。1950年7月2日未明、京都市の金閣寺が放火によって焼け落ちた事件を、当時の本紙も大々的に報じている。この寺院こそ「日本的性格の粋」であったという建築史家の談話などで紙面は埋まり、衝撃ぶりがわかるのだ。

▼京都に神社仏閣は数々あれど、足利義満ゆかりの、黄金に輝く寺の炎上は社会にひときわ強い喪失感をもたらした。事件を題材に三島由紀夫が「金閣寺」を世に問い、水上勉が「五番町夕霧楼」を書いたのもうなずける。そんな金閣寺よりも歴史の古い、パリのノートルダム寺院が火災に遭った。失火の疑いがあるという。

▼火が出たのは夕暮れを待つひとときだったらしい。日本人観光客も目立つ大聖堂の周辺はセーヌ川の風光すばらしく、カフェには客がさんざめき、パリの雰囲気を満喫できるところである。そこから見上げる寺院が炎に包まれ、尖塔(せんとう)が崩落していった。市民は賛美歌を歌ってただ鎮火を祈ったそうだ。無念、いかばかりか。

▼パリの街は、ノートルダムの鐘楼からの眺望がいちばんくっきりしている――と鹿島茂さんの「文学的パリガイド」にある。都市がここから広がったことを示す眺めだという。火災の悲しみは大きいが、寺院の骨格が残ったのは救いだ。金閣寺は再建され、室町の記憶をいまに伝える。大聖堂もかくあれと願うのみである。

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