こだわり生クリーム専門店 SNSで「バズって」行列

交流サイト(SNS)の広まりと共に、食のブームは目まぐるしく変わっている。ブームに敏感な人が行き交うJR原宿駅から徒歩6分、「生クリーム専門店MILK CAFE原宿店」はある。様々な業態の飲食店を経営するオペレーションファクトリー(大阪市)が運営する。
提供するのはできたての生クリームがたっぷりかけられた「ふわとろシフォンケーキ(780円)」や、熱いパイに冷たいアイスとクリームのかかった「究極の生クリームパイ(880円)」など、どれも生クリームにちなんだものばかり。
一般に「クリーム」には2種類ある。動物性脂肪(乳脂肪)のみでつくられる「生クリーム」と、乳脂肪に植物性脂肪を混ぜたものや植物性脂肪のみでつくられる「ホイップクリーム」だ。
同店は生乳だけで作ったコクのある生クリームのみを、できたてにこだわり提供。通常よりもゆるめの柔らかいクリームは濃い牛乳のようなコクがしっかりと感じられるが、後味はさっぱりとしており、脂っこさは感じない。しっかり甘いが、あとをひく絶妙な味だ。筆者も一口食べて旨味の濃さとスッと消える切れの良い後味に驚いた。
開業にあたり市川貴洋さんは様々な地域の生クリームを食べ比べ、牧場をリサーチ。その上で理想的な環境と感じた「北海道根釧地区」の脂肪分が異なる2種類の生乳を使い、濃厚な風味とすっきりと切れの良い後味を備えた生クリームを開発した。「生クリームは店内キッチンで泡立てて、1時間以内に提供する。作りたてであるということがおいしさ。素材もそうだが、工程が贅沢だと思う」(市川さん)

同社は2016年7月、東京・渋谷にMILKのポップアップストアを1カ月限定でオープン。すると新しい食感の生クリームが話題となり、SNSで"バズる"行列店に。開店と同時に70席が瞬く間に埋まり、午後8時までの整理券が正午にはなくなった。1カ月の会期で3万人が訪れた。
当初は翌年に常設店舗を開店する予定だったが、予定を早め16年8月に新宿店、同12月に原宿に常設店をオープン。その後、東京・新宿や同立川、大阪・なんばや梅田、そして沖縄、福岡、名古屋と次々に出店した。
約150平方メートルの原宿店は盛況時に、月商1500万~2千万円を実現。現在、カフェ利用は落ち着いたが、市川さんが次のブームをおこし、月商のレベルは維持している。次のヒットは「生タピオカ専門店 モッチャム」だ。
モッチャムはポップアップストアとして、MILK原宿店のテイクアウトブースに3月9日開業。冷凍や乾燥したタピオカを使う店がほとんどだが、モッチャムではタピオカ粉から練り上げる「生タピオカ」を提供。店内のキッチンで練り上げ、蒸して黒蜜に漬け込むという、手間のかかる工程だ。なるほど、もっちりとした食感と、黒蜜が染みこんだ甘いタピオカは一口で違いを感じた。
トレンドサイクルが早い時代だからこそ、一つ一つのメニューに磨きをかけ、研究を惜しまないことで、一つの文化として根付かせようとする意気込みを感じられる繁盛店だ。
(フードジャーナリスト 鈴木桂水)
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。美味しいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。"美味しい料理のその前"が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出会った産品の販路アドバイスも行う。
[日経MJ 2019年4月12日付]
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