2019年7月19日(金)

地理表示、知財新潮流映す
SmartTimes 東京農工大学教授 伊藤伸氏

コラム(ビジネス)
2019/4/10付
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市田柿、米沢牛、くろさき茶豆。スーパーの店頭やネット通販サイトで、赤い円を基調としたGIマークがしばしば見られるようになった。2015年に施行された新しい知的財産制度である地理的表示の登録を示すマークだ。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー株式会社設立とともに社長に就任(現任)。2013年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー株式会社設立とともに社長に就任(現任)。2013年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

地理的表示は産地と特性が特定できる農林水産物・食品等の名称であって、地名と産品名を組み合わせる。農林水産物や飲食料品を広く保護の対象とし、畳表のような非食用の加工品も含む。3月時点の登録は76産品。農林水産物の地域ブランドを守るのが大きな狙いだ。

消費者にも購入判断に役立つ情報提供という利益をもたらす点は商標と同様だが、登録申請者が地域の生産者団体に限られる点や登録後の品質管理が求められる点が異なる。

目立った特徴は、不正利用者を農林水産省が取り締まることだ。具体的には不正表示の除去や抹消を命令でき、命令違反には罰則もある。経営体力に乏しく、訴訟にも不慣れな中小事業者にとっては直接、不正利用した相手と交渉する必要がないのは心強い。農林水産業を製造、小売り等の事業と一体的に推進する「6次産業化」の潮流とも親和性がありそうだ。

登録料はかかるが、取り消されない限り、権利が存続するため更新料は発生しない。しかも、約25年以上生産が継続されている産品が登録の条件だ。伝統的な農林水産物関連の中小事業者には商機に違いない。

いかにも地域振興策に見えるが、実は知的財産を巡る国際調和の産物である。地理的表示は、代表的な知的財産の国際条約であるTRIPS協定で知的財産として位置づけられ、世界100カ国を超える国で保護がされている。知的財産立国を目指す国内での導入は当然ともいえる。この2月には日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)により、国内でEUの地理的表示71産品が、EUで日本の48産品が相互に保護されるようになった。

特許や意匠、著作権といった知的財産の制度は各国で独立している。このため、外国での知的財産の権利取得には手間と費用がかかるうえ、保護の水準がバラバラになる課題がある。日本から岩倉具視の使節団が参加した1873年のウィーン万国博では早くも「世界統一特許」の夢が語られたという。それから150年近く経過したが、夢は実現していない。

ただ、世界各国の努力で知的財産制度の足並みをそろえる潮流は着実に進行している。国内では15年に音や色彩のみの商標が導入されたが、これは国内産業界の切望というよりも、やはり国際的な制度調和が理由であった。

イノベーションの本質は「新結合」である。知的財産の国際調和と伝統的な地域農林水産物との新結合の効果には、もっと注目していいと思う。

[日経産業新聞2019年4月10日付]

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