2019年6月27日(木)

CO2実質排出ゼロへ地下貯留 科学分析に基づき議論を
Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

コラム(ビジネス)
2019/4/5付
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「パリ協定」は世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて2度未満に抑えることを目指す。実現には全てのエネルギーを再生可能エネルギーや原子力で賄う「排出ゼロ」と、化石燃料は使うが大気放出量を増やさない「実質排出ゼロ」の2つのアプローチがある。

後者で大きな役割を担うのが二酸化炭素(CO2)の地下貯留(CCS)だ。技術開発が進む一方、「CCSに頼るべきではない」という意見もある。CCSに否定的な国際団体は「技術が不確実なCCSを前提に化石燃料を使い続けると、CCSが使えない場合に手遅れになる」と言う。

現状はどうか。苫小牧市では貯留の安定・安全性を確認するため、政府の支援を得てCO2を海底下1千メートル以下と2400メートル以下の2か所に圧入している。

さらに、社会実装を目指して回収・輸送・貯留の一環実証事業も進められている。室蘭市の製鉄所や佐賀市のゴミ焼却設備から分離したCO2は、炭酸飲料や化粧品の原材料に活用。またノルウェーの北海海底下1千メートルの帯水層への貯留は20年以上の歴史がある。

米国では老朽油田での石油生産でCO2をよく使う。日本企業も米国政府の補助金も得て石油生産のために石炭火力発電所でCO2回収を始めた。これまでの事業でCO2漏れが明らかになったことはない。石油収入や補助金が必要だがCCSの技術は確立しており、課題は経済性だろう。

さらに、なじみのない技術のため不安を感じる人もいる。例えば地震だ。2018年の北海道胆振東部地震は苫小牧市のCCS実験施設に近い。

専門家による調査結果では「震源は地下37キロメートルと深く、貯留地から30キロも離れており、CO2が地震を引き起こすほどの力を加えた可能性は低い。また(CO2が漏れると下がる)貯留地の圧力が地震後も低下していない」とされている。

しかし3月の余震の後「CCSが地震を誘発した」という噂がSNSで広まった。ダムやシェールガス開発などではしばしば小さな揺れが起きるが、被害を与えるような地震につながるのだろうか。何が事実で、何が不確実なのか、科学的に議論し、その結果を公開することが必要だろう。

CCSによりエネルギー戦略の自由度が高まる。しかし、国民の理解も欠かせない。化石燃料には炭素コスト、再生エネにはエネルギー貯蔵などのコストを加味し、経済性を総合的に比較したうえで技術開発目標を設定することが低炭素戦略には必要だ。

[日経産業新聞2019年4月5日付]

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