2019年6月20日(木)

老舗食堂のIT経営 果実は客にも社員にも
奔流eビジネス (通販コンサルタント 村山らむね氏)

コラム(ビジネス)
ネット・IT
2019/3/22付
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NIKKEI MJ

地方創生に関するイベントや勉強会が花盛りである。先日参加したセミナーで聞いた伊勢の事例は、他の地域の参考となるので紹介したい。

ゑびやの小田島さんはITを生かし、売上高を4年で4倍に伸ばした

ゑびやの小田島さんはITを生かし、売上高を4年で4倍に伸ばした

三重県伊勢市にある老舗食堂「ゑびや」の小田島春樹代表取締役(33)は、ソフトバンクで新規事業などを経験。その後、結婚を機に食堂の経営に携わることとなった。2012年から4年間で売上高は4倍に。IT(情報技術)を活用した手腕が評価されている。

地方のサービス業にとって「IT活用のコストが高い」「従業員の給与水準が低い」という課題がある。この課題をいかにして解決したかを小田島さんに聞いた。

ゑびやでは、マイクロソフトの既存のシステムを活用することで、ITコストを削減した。ITで仕事の効率が上がることで生まれた時間を、顧客サービスの向上につなげている。あいた時間を使って、スタッフ全員で清掃したエピソードもあるそうだ。

積極的に利益を社員の給与アップにつなげている。ゑびやのある優秀な女性社員は、月収26万円となった。近隣地域では、正社員を月収16万円で募集している。「サービス業の人材不足を憂うなら、まずは収入を上げるべき」と明快だ。

小田島さんは独自に3種類のITシステムを開発し、19年から他社への提供を始めた。

「来客データ分析」は、来店客のグループ属性や注文品目などレジでの情報と、天気や気温をひも付けて分析する。価格も月額2万円程度から利用可能で、40社ほどから引き合いがあるそうだ。小田島さんが最も重視したことは「必要な数字を取捨選択すること」。店舗経営に必要な数字は、それほど多くはないという。

小田島さんは三重大学の博士課程での研究成果を基に、必要なデータだけがダッシュボードで共有できるようにしている。ダッシュボードのデザインにもこだわっている。「人は数字が苦手」という前提に基づき、親しみやすい色やフォントを採用している。

むらやま・らむね 慶大法卒。東芝、ネットマーケティングベンチャーを経てマーケティング支援のスタイルビズ(さいたま市)を設立、代表に。

むらやま・らむね 慶大法卒。東芝、ネットマーケティングベンチャーを経てマーケティング支援のスタイルビズ(さいたま市)を設立、代表に。

「画像解析AI分析&交通量解析」システムは、店外に設置したカメラが軒先の往来を測り、入店率が分かるようにした。メニューの価格を上げ、看板の料理写真をモダンなデザインにしたところ、入店率が下がった。そこで、価格は据え置いたまま写真デザインを元に戻すと、入店率が回復したことが分かった。価格よりもメニューの写真が、売り上げを左右することがわかったという。

「来店予測AI分析」システムは仕入れのムダを排除し、繁閑に応じた人員配置を可能にする。来店客のアンケート分析からも、「待たされる」ことに一番の不満があったという。来店予測は、社員の働き方改革だけでなく、顧客の満足度を上げることにも寄与している。社員の満足度も、もちろん上がっている。

中小規模の飲食店はまだITを導入しきれていない。だが中小こそ、IT活用で開ける未来は大きい。ゑびやの成功は、顧客と社員がIT化の果実をシェアしたところにある。飲食店だけでなく、他業種もこの考え方に学ぶところは多い。

[日経MJ2019年3月22日付]

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