2019年6月25日(火)

大手企業、気候変動の影響開示 リスク耐性、説得力必要
Earth新潮流 日経ESG編集部 馬場未希

コラム(ビジネス)
2019/3/22付
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トヨタ自動車日立製作所キリンホールディングスなどを皮切りに、日本企業が気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の「提言」に基づく情報開示に着手し始めた。

TCFDは主要国の金融当局でつくる金融安定理事会(FSB)が設けた組織。金融機関や企業から専門家が派遣された。その役割は、金融市場が気候変動にどう対処すべきかを検討することだ。

2017年に発表した提言では、気候変動について金融市場に影響を及ぼすリスクであると規定。投資家などは株式や債券を発行する企業に対し、気候変動でどのような影響が及ぶ可能性があるかの情報開示を求める必要があると指摘した。投資家らが投資判断に生かせるよう、情報開示の枠組みを示した。

トヨタは18年9月、気候変動に関する「シナリオ分析」を掲載した環境報告書を発行。日立も同月発行のサステナビリティ報告書と同10月発行の統合報告書で、気候変動に関わるリスクや機会を開示した。

キリンHDは、将来、気温が上昇した場合に同社の主要な原料である農産物に及ぶとみられる影響を調査した。同6月発行のグループ環境報告書にいち早く掲載し、注目を集めた。

いずれもTCFDの提言に基づき情報開示したケースだ。昨年、世界で大手企業を中心に開示が始まった。その中身が企業の価値や強みを投資家に示すものだけに、他社に差を付けようとの競争も起きている。

提言は30年やその先を見据えた長期的な事業戦略について、気候変動に関わる規制強化や、激化する気象災害への対応を踏まえて描き、説得力をもって投資家に語ることを求めている。将来の経済や社会の姿を想定し、事業への影響を評価する「シナリオ分析」を企業に求めたことでも注目された。

これらは経営者に求められる仕事だが、一般的に経営者は3年以上先を語ることすら難しいだろう。それが今、長期の戦略開示に多くの企業が着手し始めた。

企業が提言に基づく開示に取り組む背景には、投資家の要請がある。世界最大の機関投資家、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など323の機関投資家が大手企業に提言への対応を求めている。

企業側もTCFDへの賛同を表明。18日までに企業や金融機関、投資家、政府機関など600を超す組織が賛同した。賛同組織が最多の国は英国で、次いで米国。日本は64組織で3番目に多い。経済産業省はTCFD賛同企業を100社以上と世界最多にする意気込みで、昨年、企業の強みを伝える情報開示のためのガイダンスを公表した。

特に開示が進んでいるのが、化石資源を扱うエネルギー・資源業界だ。例えば英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルは数十年前からシナリオ分析に取り組んでいる。

国際石油開発帝石は、気候変動によるリスクの評価や対応のための戦略を、TCFD提言の枠組みに基づいてサステナビリティ報告書に掲載した。石油から天然ガス、再生可能エネルギーへと事業の将来像を示すことで、経営を継続していける強靭(きょうじん)さを示した。

資源開発は巨額の費用を要し、投資回収期間も長期にわたる。規制などの影響で需要がどう変動するか、TCFDが求めるように長期的な視野で評価し、時に事業の見直しに役立てることが経営の強さを保つことにつながる。

国際帝石のように戦略までを開示した例はそう多くない。だが今後1~2年で、開示するケースが増えるだろう。

[日経産業新聞2019年3月22日付]

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