春秋

2019/3/18付
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ある医師が、刑務所で覚醒剤関連の受刑者たちと話した体験を本に記している。ほぼ全員が、かつて「親分」などの身近な人からきつい叱責を受けていた。それでもやめられないばかりか「余計にクスリをやりたくなった」。自己嫌悪やみじめさを忘れるためだという。

▼国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部部長の松本俊彦さんが、編著書「ハームリダクションとは何か」で披露する話だ。近親者や世間からの強い非難や法による罰則で、違法薬物への依存者は救われるか。松本さんは経験から疑問に感じている。排除よりつながり、処罰より治療や支援との視点が大事だと説く。

▼書名にあるハームリダクション(損害削減)とは、薬物による健康や経済面への被害を最小限にとどめ、緩やかに離脱する対策法を指す。なかなかやめられなければ監視下で使用を続けさせる、などが一例だ。日本では聞き慣れない言葉だが、松本さんたちの報告によれば、他の先進諸国や台湾などで広がっているそうだ。

▼小欄も一度ふれたが、人気の高い音楽家兼俳優が麻薬使用の疑いで逮捕された。その後の報道では、相変わらず「白い粉」の映像でおどろおどろしく描く番組が目立つ一方、依存症を社会の課題としてとらえ、相談窓口を紹介するなどの試みも増えている。断罪から支援へ、薬物依存を見る目の転換点となるかもしれない。

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