春秋

2019/3/13付
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森鴎外は子どもたちにユニークな名をつけた。長男の於菟(おと)を手始めに、長女に茉莉(まり)という難しい字を使い、次女は杏奴(あんぬ)、次男は不律(ふりつ)、末っ子の三男は類(るい)と続けている。ドイツ留学の経験から、オットーやフリッツといった独語風の響きをわが子らに与えたのだとされる。

▼いわゆるキラキラネームの元祖といっていいが、そうした命名は、じつは戦前からいろいろあったようだ。紅玉子(るびこ)、元素(はじめ)、亜歴山(あれきさんどる)、六十里二(むそりに)……。驚きの名前の数々が、ものの本には出てくる(伊東ひとみ著「キラキラネームの大研究」)。ついでに言うと与謝野鉄幹・晶子の四男はアウギュスト、五女はエレンヌだった。

▼こういう歴史を顧みれば、昨今の奔放な名付けの数々もさもありなん――とはいえ、物事にはさすがに限度があろう。「王子様」なる名を持つ山梨県の高校3年生が家裁に改名を申し立て、このほど「肇」への変更を許可された。ツイッターはこの一件で大いに盛り上がり、ご本人も「親になる人はよく考えて」と訴える。

▼鴎外の子らは医学者や作家としてのちのち世に知られ、その風変わりな名も文豪ファミリーの存在感を高めた。しかしそれはそれ、実際には、親が与えた思い切った名に悩んでいる子どもが少なくあるまい。戦前、いっときの英雄にちなんで六十里二と命名された人はその後をどう生きただろう。やはり、よく考えないと。

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