春秋 - 日本経済新聞
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春秋

夜の学校で窓ガラスを壊して回る。盗んだオートバイで街を走る。世の中とうまく折り合えず、鬱屈を抱える若者たちの代弁者とも言われた尾崎豊さんのヒット曲には、こうした場面が登場する。今ならこう続くのかもしれない。「そしてスマホで撮影、投稿した――」

▼小売店や飲食店で、食べ物をわざと粗末に扱い、動画で公開する店員がおり、問題となっている。経営に与える打撃は大きく、企業が防止策に乗り出すのは当然だ。ただし、集団暴走や毒々しいファッションなど、悪ぶった姿を世間に誇示したい若者は、いつの世も一定数いる。その道具が「食べ物」である点が気になる。

▼推理小説の元祖は1841年の「モルグ街の殺人」とされるが、黄金期を迎えるのは1920年代から30年代だ。人の死を娯楽にする流行の背景に、第1次世界大戦による大量死があるとの説を作家の笠井潔さんが唱えている。近代兵器による大規模な戦闘は、死に関する人々の感覚を変えてしまったのでは、との仮説だ。

▼食べ物を粗末にすればバチがあたる。家や学校でそう教えられてきた若者が、初めて店で働く。体験するのは食品の「大量死」だ。日々棚の売れ残りを集めゴミとして捨てたり、ノルマの季節商品を店主と店員が押しつけ合ったり。心の奥で食への感覚が変容し始めているとしたら、動画公開うんぬんより問題の根は深い。

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