マイナー魚の活用で脚光 人気の宅配ずし、東京・墨田

漁港を取材していると必ず見かけるのが未利用魚だ。味は良いが、見た目が悪い、鮮度が落ちやすい、さばきづらいなど様々な理由で流通しにくい魚を指す。一般的に市場で値がつかないので、船上で廃棄されたり、肥料や養殖魚の餌にされたりする。また季節外れの魚やセリの単位に満たない少量しか取れない魚も、未利用魚として扱われることもある。
こうした魚を積極的に仕入れ、宅配ずしのネタにして注文を獲得しているのが、東京都墨田区にある「黒酢の寿司 京山」だ。
同店では北海道から長崎の五島列島まで約15の港の漁業関係者と交流を持つ。流通しづらい魚を産地から直接仕入れて、「おまかせセット」として握りで提供し、人気になっている。
このセットは、未利用魚を含む地魚が中心の「上」と、マグロの中トロが入った「特上」がある。それぞれ10カンから10単位で50カンまで注文でき、数が増えるほどお得感が増す。上10カンは1383円、特上10カンは1707円だが、50カンになると上5670円、特上6459円とお値打ちだ。シャリに黒酢を使い、職人が注文を受けて握るので、味は本物志向で満足度は高い。
同店の発注はキロあたりの価格を決め、その範囲内で「刺し身にできる魚」と着日を指定するだけ。サイズや魚種は指定しないので、何が届くか分からない。朝山議尊社長は「同じ魚が多いときや、さばきづらいカサゴ、オコゼが入っていると泣きそうになる」と話す。頭が大きく歩留まりが悪いコブダイ、ヤガラなどもうれしくない魚種だ。それでも「ちゃんとさばけばウマイ!」と腕を振るう。
しかしマイナー魚のすしがなぜ売れるのか? 一つは鮮度。市場を通さないので、一般流通よりも1~3日は早く届く。未利用魚のなかには鮮度が落ちやすい魚種もあるので、輸送日の1日が明暗を分ける。たとえば、焼き魚の定番の「レンコ鯛」は鮮度が良ければ、刺し身がうまい。

もう一つは技術。朝山社長は魚が好き過ぎて、仕事仲間があきれるほどのマニア。すでに500種以上の魚種をさばいてきた。魚種により、鮮度の落ち方、骨の入り方、トゲの位置などが異なる。それを瞬時に見極めて、調理する技術は神業に等しい。
京山には、朝山社長を師と仰ぐ社員が4人おり、その技術を継承している。
朝山社長は「未利用魚は常態流通させるには手間と技術が必要。それと魚への愛がないと続けられない」と笑う。それもそのはず。毎朝7時から魚をさばき、週末には1日1500カン以上のすしを握る。過去にすしの握りすぎで疲労骨折したこともある。
配送エリアは東京23区内だが、注文金額によって変えている。墨田区内は2500円から、世田谷区、大田区へは5万円以上の注文で届けている。
漁港の収益拡大や魚介類の消費拡大を通じた食料自給率の向上といった観点から、水産庁も未利用魚の活用を促している。ホッケは鮮度が落ちやすく、かつては敬遠されたが、居酒屋の定番メニューになった。物流網の整備などで、未利用魚から次世代のスター食材が生まれる日も近い。
(フードジャーナリスト 鈴木桂水)
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。美味しいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。"美味しい料理のその前"が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出会った産品の販路アドバイスも行う。
[日経MJ 2019年2月15日付]
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