2019年3月20日(水)

原子力人材、維持できるか 現場経験者減少に危機感
Earth新潮流

コラム(ビジネス)
2019/2/8付
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原子力発電を担う人材を維持できるのか、関連企業や研究機関が危機感を強めている。原発の輸出ビジネスが事実上頓挫し、国内でも新増設が見込めないなか、技術力の低下や人材の散逸が避けられないためだ。建設や運転の現場が減り、教育でも原子力離れに歯止めが掛からない。業界団体は対策づくりに動いているが、妙手は見えない。

原子力施設の多くで技能継承が課題になっている(青森県六ケ所村の日本原燃再処理工場)

原子力施設の多くで技能継承が課題になっている(青森県六ケ所村の日本原燃再処理工場)

関連企業がつくる日本原子力産業協会と日本原子力研究開発機構などは4月から、人材確保の検討を本格化させる。企業や研究機関、大学など79社・機関が集まる「原子力人材育成ネットワーク」の司令塔機能を強め、具体策を提言したり達成状況をチェックしたりする。

共同事務局を務める原産協会の喜多智彦・人材育成部長は「これまでは情報交換にとどまっていたが、今後は実効性のある策が必要になる」と危機感をにじませる。

人材ネットの組織自体は2010年からあった。当時は先進国のほか新興国でも原発の建設計画が相次ぎ「原子力ルネサンス」と呼ばれた時期。市場拡大で人材供給が追いつかなくなるとの懸念から組織が発足した。

だが、11年の東京電力福島第1原発事故で状況は一変した。国内の原発建設は棚上げになり、新規制基準に合格して再稼働した原発も9基にとどまる。輸出でも三菱重工業のトルコでの計画が難航し、日立製作所は英国での計画を凍結した。

メーカーや電力会社の現場では「新規建設や稼働中の原発がなければ技術や人を継承できない」と懸念を強めている。

特に深刻なのが現場経験のない技術者・技能者が増えていることだ。

原産協会が日立、東芝、三菱の主要メーカー3社を調べたところ、12年度には35歳未満の若手でも約2割が建設プロジェクトの経験者だった。それが15年度には1割強に低下。「技術者全体の高齢化も進み、経験を伝えるベテランがいない」と悲鳴が聞かれる。

保守点検の現場でも同様だ。ある企業が作業班長クラスを対象に稼働原発の保守経験を聞いたところ、08年には全員が「ある」としたが、18年には3割以下だった。

大学の「原子力離れ」も止まらない。文部科学省などによれば大学院を含め原子力専攻への入学者は10年度317人をピークにジリジリと減り、17年度は250人を割った。

教員も04年度時点で438人いたが、定年退官などにより13年度までに2割以上減少。「中核となる原子炉物理や原子炉工学の専門家がほとんどいない」と危ぶむ研究者は多い。

打つ手はあるのか。原子炉メーカーは新増設の代わりに廃炉ビジネスに活路を見いだそうとしている。技術者を再教育して設計から廃炉部門に配置転換したり、メーカーで設計・開発に携わった技術者に電力会社で原発の管理に知識を生かしてもらうなど、人材の流動性を高める取り組みがまず求められる。

大学での人材育成は容易ではない。原子力が斜陽化するなか、各大学の経営判断で学科や専攻を増やすことは難しい。政府が何らかの形で関与せざるを得ない。

政府は東日本大震災前に比べて原発への依存度を下げ、30年時点で発電量に占める原子力比率を20~22%にする目標を掲げている。原発に頼り続ける間は安全に運転し、廃炉や放射性物質の管理などに携わる人材の維持は欠かせない。

政府がまず原発の長期的な位置づけを明確にしたうえで、産業界と連携して人材確保の将来展望を示す必要がある。

(編集委員 久保田啓介)

[日経産業新聞2019年2月8日付]

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