春秋

2019/2/6 1:12
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日本が第2次世界大戦に敗れ、進駐軍が占領統治していた時代。出版、放送、映画などで、反米的、あるいは復古調の表現は許されず、厳しく統制された。占領当局が初めて許可した翻訳出版は、ジョージ・オーウェルの「動物農場」だった。1949年のことである。

▼かの名作「一九八四年」も、本国での出版の翌年、50年には早くも日本で翻訳された。なぜか。米国はオーウェルが活写した全体主義の党が支配する近未来の作品世界を、スターリン政権下の旧ソ連の圧政を批判したもの、と解釈したからだ。日本の「赤化」を防ぐ。反共プロパガンダの文学として、出版を奨励したのだ。

▼本作の主人公は、党が頻繁に改ざんする統計について「修正された数字が幻想というなら元の数字も幻想」と語る。厚生労働省の基幹統計を巡る不正の根にある背信と重ねてみたくもなる。先月の大学入試センター試験「現代社会」は、オーウェルが描く監視社会と昨今のデータ社会を比べ、プライバシーの意味を問うた。

▼買い物の際、特典がつくポイントカードの運営会社が、会員の利用情報を、裁判所の令状のないまま捜査当局に提供していたことが明らかになった。会社側はサイトで、「一層の社会への貢献を目指し協力した」と説明する。なるほど、高潔な倫理だ。70年前の作家の風刺と文明批評は、現代社会でこそ切実ということか。

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