地方で革新起こす条件
SmartTimes 東京農工大学教授 伊藤伸氏

2019/2/8 6:30
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地域の科学技術をてこにした地域におけるイノベーション創出は、地方創生に不可欠な起爆剤と考えられている。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー株式会社設立とともに社長に就任(現任)。2013年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー株式会社設立とともに社長に就任(現任)。2013年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

1995年の科学技術基本法制定以降、政府は知的クラスター創生事業をはじめ、多様な地域科学技術の支援事業を進めてきた。地域内で目標とした研究成果が得られ、事業化に至った例も少なくない。大学院や研究所に地域イノベーションを掲げる大学も散見される。とはいえ、今日でも科学技術イノベーションを支える地域資源は明らかに偏在している。

文部科学省科学技術・学術政策研究所は2018年11月に、研究開発費や研究開発人材、産学連携、特許、論文といった地域資源に関するデータを都道府県別に分析した報告書をまとめた。結果は東京都の数値が他を圧倒。16年の名目の国内総生産(GDP)で6割弱の三大都市圏が研究者数では75%、研究開発費で80%、特許出願で89%を占めるという大きな地域間格差が確認された。

新興国に急速に追い上げられているが、日本は依然として科学技術大国である。世界知的所有権機関(WIPO)が12年から16年の論文発表と国際出願を基にまとめた世界の科学技術の集積地域ランキングでは、東京・横浜地域が世界一になった。大阪・神戸・京都地域も6位に入った。都市圏は科学技術イノベーションに関して地域集積のうまみを享受しているようだ。

イノベーション創出に企業や大学・公的研究機関といった主体の近接・凝集が重要な役割を果たすことを多数の学術研究が示している。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」の時代であっても地理的距離は大きな要因になる。近距離における主体間の結び付きやすさや保有する知識の伝播(でんぱ)の起こりやすさがイノベーション創出を後押しする。シリコンバレーはその典型である。

現実問題として、研究者や研究費配分の大幅変更により地域間格差の縮小を期待するのは難しい。都市圏の資源を無理に地方圏に移せば、せっかくの集積のうまみを失いかねない。

資源集積の薄い地方圏でイノベーションを志向する企業にとって、選択肢の一つは大学や公設試験場等との連携であろう。研究者数と研究開発費をみると、大学や公設試験場等の地方圏の構成比は3割から4割程度と企業の集積と比較して地域間格差が小さい。

科学技術・学術政策研究所の荒木寛幸上席研究官は「地域の科学技術コミュニティー特性の把握」を挙げる。人は、他者が保有する知識の種類や価値を手掛かりに関係を結ぶ相手を選択する傾向がある。コミュニティー特性の把握は必要な知識を得て、さらに新たな知識を生み出すプロセスを円滑にする。地域内で不足する知識は他地域とのネットワークで補うとの判断も可能になる。

[日経産業新聞2019年2月6日付]

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