スマートフォン(スマホ)アプリの利用動向のデータをウオッチしていると、思いがけず人々の生活実態に触れる場面がある。最近、特に強く感じたのは「連絡網アプリ」の利用動向からだ。
連絡網アプリとは、電話の連絡網や学校からの情報発信をスマホアプリに置き換えたものだ。保育園や学校の職員が保護者に向けて、行事や災害、不審者など様々な情報をアプリで連絡する。電話や紙での煩雑なやりとりをなくし、情報を一斉かつ即座に伝えられるメリットがある。
筆者が所属するフラー(千葉県柏市)が手がけるアプリ分析ツール「AppApe(アップ・エイプ)」によると、1月7~27日のアプリ利用者の増加率の首位と2位は、いずれも連絡網アプリだった。首位に立ったドリームエリア(東京・渋谷)の「マチコミメール」は3週間で2.96倍伸びた。2位はVISH(名古屋市)の「れんらくアプリ」が同2.84倍増で続いた。
年が明けて保育園や学校の始業式を控え、持ち物や連絡事項などをアプリで確認したのに加え、患者数が急増したインフルエンザへの注意喚起や学級閉鎖情報の配信などで利用が伸びたと筆者は見ている。
マチコミメール利用者の性・年代別の割合を見ると、40代女性(41%)と30代女性(32%)で実に7割以上に達する。男性は全年代を合計しても16%にとどまる。れんらくアプリも同様だ。40代女性(39%)と30代女性(38%)で計8割に迫る一方、男性は全年代合計で13%と、男女間で大きな差がある。
こうしたデータを見ていると、家族みんなで子育てできているのだろうかという疑問がふつふつと湧いてくる。
少子高齢化の進展で働き手が不足し、子育て世代の共働きを含めた多様な働き方を社会が受け入れる機運は高まっている。でも、連絡網アプリのデータからは、子育ての主な担い手は相変わらず女性という実態が透けて見える。
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、18歳未満の子どもを持つ母親の就業率は年々拡大し、2017年には70.8%に達した。にもかかわらず、マチコミメールの男女比率は、アップエイプが現在の方式でデータを集計し始めた16年6月以降、ほとんど変わっていない。女性が70%台、男性は20%前後にとどまる。
電話による連絡網や紙による情報発信しかなかった時代に比べ、学校や保育園からの情報は、アプリの力で格段に手に入れやすくなっている。
子育て世帯の男性読者のみなさん。自分の胸に手を当ててみて、まずはアプリをインストールするところから始めたらどうだろうか。もしアプリがなかったとしても、子供や学校のことについてまず知ろうと行動することが重要だ。筆者も含めて。
[日経MJ2019年2月6日付]