2019年9月22日(日)

排出「ゼロ」か「実質ゼロ」か エネ戦略、国民的議論を
Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

2019/2/4 6:30
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2020年以降の地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」では、産業革命前からの温度上昇をセ氏2度未満に抑えることと、21世紀後半に大気中の温暖化ガスを増やさないことが合意された。

目標が決まれば、次は「どうやって」の番だ。

18年12月にポーランドで開催した第24回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP24)では、パリ協定のルール作りの国際交渉と並行して、シンクタンク、大学、企業などの専門家が長期のシナリオを発表した。

様々なシナリオを単純化すると「排出ゼロ(ゼロエミッション)」か「実質排出ゼロ(ネットゼロエミッション)」の2つに分かれる。

ゼロエミは再生可能エネルギーと原子力だが、原子力には賛否両論があり、再生エネのみで、と言う主張が多い。この考えのよりどころは再生エネ発電コストの急激な低下だ。

自然条件に恵まれた中東やオーストラリアでは、太陽光や風力の発電コストだけみれば火力発電より安い場合も出てきた。気象条件で発電量が変動するという弱点も、発電パターンが異なる太陽光と風力発電が大量に使われることで、変動が一定程度相殺されるようになってきた。さらに今後の大型蓄電池の設備コストの低下を見込めば、100%再生エネが経済的にも可能だという考えだ。

ネットゼロエミは再生エネを最大限使うが、火力発電や、輸送や化学などに化石燃料も使う。火力発電は発電量が調節できるので再生エネ発電で生じる「凸凹」を埋められる。また、輸送や貯蔵も容易だ。

カギとなるのは、化石燃料から生じる二酸化炭素(CO2)を地中に戻す「CO2地下貯留(CCS)」技術だ。CCSも再生エネ並みに補助金を受けて多数使われれば、コストは下がる。コストが安ければバイオマス発電と組み合わせて排出量をゼロ以下にすることも可能。エネルギーの選択肢を増やすことで経済性を向上させるという考えだ。

化石燃料への投資が「座礁資産」になることを説いたNPOのカーボントラッカーや、「全てのエネルギー、全ての技術」を基本とする国際エネルギー機関(IEA)、再生エネを推進する国際再生可能エネルギー機関(IRENA)などのシナリオをみると、いずれも論理的であり、説得力がある。

しかし、決定的な違いは化石燃料の役割だ。つまり「ネット」の有無は、化石燃料を使わない経済を実現できるのか、できるとすればいつなのか、の差といえる。

経済成長率や人口などの外部環境には大きな差はなく、結果の違いをもたらすのは前提となる技術コストのようだ。

例えば、再生エネ発電やエネルギー貯蔵のコストが引き続き低下し、CCSは技術改良が進まないとすれば、ゼロエミ100%が経済性で優位がある。他方で、CCSコストが炭素価格以下に下がれば全てのエネルギー活用が合理的な選択となる。

画期的な技術の開発の長期展望は困難であり、コストを誰がどのように負担するかも難題だ。しかし、長期のエネルギー・気候変動に関する戦略は日本の将来を左右する重大な問題であり、将来のあり方を選択するための国民的議論がこれから必要になる。

COPは同じ考えのグループだけで集まることが多く、対立する2つの考え方の差について正面から議論する場は少なかったが、これでは検討は進まない。

それぞれの考え方が「なぜ違うのか」「得手不得手は何か」について、専門家やメディアからの発信とオープンな対話を期待したい。

[日経産業新聞2019年2月1日付]

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