春秋

2019/1/22 1:16
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ラフカディオ・ハーン、のちの小泉八雲ゆかりの地といえば島根県松江市がどこよりも有名である。ハーンはここで妻となるセツと出会い、日本文化への深い理解を育んだ。だからいまも市をあげて顕彰しているが、じつはハーンの松江滞在は1年ちょっとにすぎない。

▼その理由は寒さだったといわれる。明治23年の夏に中学校教師として松江に赴任したハーンは、年末から翌年正月にかけての寒波に音を上げた。宍道湖が結氷するほどの寒さは、ニューオーリンズやカリブ海のマルティニークに住んでいた彼には耐えがたかったろう。次の冬が来る前の11月、セツを連れて熊本へ去るのだ。

▼もっとも明治の昔、寒いのは松江だけではなかった。東京でも9年1月に氷点下9.2度まで下がった史上最低気温の記録がある。その時代、これに近い寒気はときどき首都を襲っているから、やがて上京してきたハーンも震えつつ冬を乗り切ったはずだ。名作「雪女」の情景にも寒さへの畏怖がにじんでいるに違いない。

▼往時ほどの酷寒はいまどき縁遠いにせよ、大寒前後のこの時期はやはり身も心も縮む。天気予報を眺めれば、今週は強烈な冬将軍がやって来るらしい。そういえば興膳宏さんの「漢語日暦」をめくっていて、底冷えのする日の鉛色の空の気配を「雪意(せつい)」と呼ぶと知った。ハーンが過ごした松江の城下に、雪意が漂うだろう。

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