「スマホ級」不在のCES 5Gがつなぐ未来見えた
先読みウェブワールド (藤村厚夫氏)
例年、その年のデジタルトレンドの行方を占う格好の役割を果たすのが、「CES」。米国で1月早々に開催される世界最大の家電・技術見本市だ。

2019年も18万人もの来場者を集めた。ここ数年は、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」機器や自動運転車、音声関連技術が主役の座を占めてきた。19年も引き続きIoT関連の機器が話題を集めた。とりわけ、音声関連で先鞭(せんべん)をつけ、リードを守ろうとするアマゾン・ドット・コム。AI(人工知能技術)の大御所、グーグルがアマゾンを追うつばぜり合いが目につく。
両社ともAIスピーカー製品の展示はもちろん、自社の技術に対応したサードパーティー(外部の開発者やメーカーなど)による製品を数多くそろえて陣営の影響力を誇示した。
音声に対応した車載システムや、しゃべるキッチン機器(電子レンジや電気ポット、蛇口)などは想像の範囲内だが、浴室や「音声対応トイレ(の便器)」までが発表されるなど広がりを見せている。
こうした製品の多くがアマゾンとグーグルの音声技術に対応している。視点を変えると、かつてのスマートフォン(スマホ)に匹敵するような大型ニューフェースの登場はなかったものの、これまで話題先行だった技術が新たな市場へと着地する道筋が見えてきたとも言える。
それが何かといえば、これまでばらばらの話題としてとりあげられてきたトレンドが、大きく一つのテーマへと融合しようとしていることだ。背景には、次世代通信規格「5G」という超高速のモバイル通信技術が実用期に入ったことがある。

5Gは、4Kや8Kといった高精細な動画に必要な大容量データを高速で転送できる。スマホのような限られた数の端末との接続という制約を超え、無数の機器との接続に耐えられる。さらに、高速で移動する車両などでも滑らかなデータ転送が実現する。
今後、自動運転車が普及していけば、自動車を取り囲む膨大なデータを高速に処理する必要がある一方、運転から解放された利用者が楽しめるよう、映像をはじめとするエンターテイメントシステムが急速に発達するだろう。IoT環境が整うことで、無数の機器が通信し合う家電市場なども勢いが増す。これらを支えるのが5G接続というわけだ。
「無数の機器」がすべてスマホのようなデータ転送や処理能力を持つわけではない。そのため、クラウドと機器の間に、「エッジサーバー」と呼ばれるデータの中継や処理を引き受ける機器とその仕様の標準化にも注目が集まっている。中国の百度(バイドゥ)は、CESを機にエッジの開発基盤をオープンソース化することを発表した。
スマホは指先による操作が主流だった。だが、ディスプレーやキーボードなどを持たない無数の機器を操作するためのインターフェースは、音声が標準となっていく可能性が高い。
[日経MJ2019年1月21日付]