2019年3月24日(日)

主導役なき世界を乗り切るために

2019/1/6 23:05
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平成の世が始まった1989年は、世界地図が一変した激動の年でもあった。

中国では6月に民主化デモを武力で鎮圧する天安門事件が起き、東欧では民主革命が本格化した。11月には東西ドイツを隔てていたベルリンの壁が壊れた。そして12月には地中海のマルタ島で開かれた米ソ首脳会談で、東西冷戦の終結が高らかに宣言された。

近づく「新冷戦」の足音

それから2年後には、超大国だったソ連が崩壊。世界は米国一極体制の下で、民主主義や自由経済が勝利したと酔いしれた。

歴史的な米ソ首脳会談が開かれた日、舞台となったマルタを時ならぬ大嵐が襲った。再び訪れる混沌の時代を予兆していたのだろうか。冷戦の終結から30年。くしくも平成の終わりを迎える今年は、「新冷戦」の足音がひしひしと近づいてくるような雲行きだ。

中でも深刻なのが、世界第1、第2の経済大国である米国と中国の貿易戦争だ。米国は中国による知的財産権の侵害などを理由に制裁を発動し、中国からの輸入品に高関税を課した。中国もほぼ同様の対抗措置を講じており、米中の覇権争いが世界経済や金融市場の大きな不安要因となっている。

かつて冷戦終結を唱えた米ロの関係も冷え込んだ。2016年の米大統領選へのロシアの介入疑惑に端を発した対立は、核軍備管理にも波及。トランプ政権は米国と旧ソ連が結んだ中距離核戦力(INF)廃棄条約を破棄する方針で、21年に期限切れを迎える米ロの新戦略兵器削減条約(新START)の延長にも消極的だ。

米ロは世界の核弾頭の9割以上を保有する。米国はイラン核合意からも離脱しており、世界が再び核軍拡競争に陥る恐れがある。

冷戦後の国際秩序が揺らぎ、不透明さを増す世界。それは「米国第一主義」を掲げ、国際協調より自国の利益を優先するトランプ大統領の登場と密接にかかわる。

もっとも、米国はオバマ前政権下から「世界の警察官ではない」と公言していた。リチャード・ハース米外交問題評議会会長のように、トランプ現象の背景にブッシュ(子)元政権下で始まったアフガニスタンやイラク戦争の「介入疲れ」を指摘する声もある。

パックス・アメリカーナ(米国による平和)という言葉がある。圧倒的な軍事力と経済力を背景に、米国が世界の秩序と平和を維持してきた時代のことだ。

その起点を、時のウィルソン大統領が「民主主義を守る」ことを大義に掲げて第1次世界大戦に参戦した1917年とすれば、トランプ大統領の就任でちょうど100年。1世紀に及んだ米国による平和の時代に終止符を打ったとみるべきかもしれない。

では、国際秩序の主導役を誰が担うのか。国際的な影響力はともかく、権威主義国家の中国やロシアに米国の代役は務まらない。

欧州では、最強の政治リーダーだったドイツのメルケル首相が難民問題への対応で支持を失い、英国は欧州連合(EU)離脱をめぐる迷走が続いている。

有志国で秩序支えよ

欧州に限らず、世界を見渡しても、偏狭なポピュリズムと自国優先主義を掲げる政治家や政党が急速に支持を広げている。平成の次の時代は、主導役なき世界が現実のものとなりつつある。

自由と民主主義、市場経済の価値観、多国間主義に基づく国際秩序の枠組みをいかに守っていけばよいのか。有志国が結集し、それを支えていくしかあるまい。

日本も有力な有志国として、米欧や中ロなど主要国にグローバルな協調体制の再構築を働きかけていく必要がある。6月末に大阪で開く20カ国・地域(G20)首脳会議で日本は初の議長国を担う。そのかじ取りは極めて重要だ。

とくに自由貿易の推進では、環太平洋経済連携協定(TPP)への米国の復帰を粘り強く呼びかけるとともに、中国やインドが加わる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉の早期妥結を促すべきだ。保護主義に対抗し、米中の貿易紛争を収拾する意味では、世界貿易機関(WTO)の改革を主導していく必要があろう。

外交では日米同盟を基軸にしつつ、中ロとの関係も含めて日本独自の役割も模索したい。平成の次の時代に、日本が世界で担うべき責務は重い。

(おわり)

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