2019年6月19日(水)

「生きている」を謳歌する
SmartTimes WAmazing代表取締役社長CEO 加藤史子氏

コラム(ビジネス)
2018/12/26付
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子供の頃、SF作家の星新一さんのショートショートが大好きだった。大人になった今も特に心に残っているのは「処刑」というタイトルの作品だ。流刑星とも呼べる「赤い星」で、地球で罪人とされた主人公が生きていく内容だ。

慶応大卒、1998年リクルート入社。ネットの新規事業開発を担当した後「じゃらんリサーチセンター」に異動し、観光による地域活性化事業を展開。2016年WAmazing創業。

慶応大卒、1998年リクルート入社。ネットの新規事業開発を担当した後「じゃらんリサーチセンター」に異動し、観光による地域活性化事業を展開。2016年WAmazing創業。

赤い星は気温が高く乾燥しており、雨は降らない。罪人が生きていくために必要な水は、渡された「銀の玉」で得ることができる。この銀の玉は、ボタンを押すたびに周囲の空気を急激に圧縮させ水を作り出す。しかし一定の回数ボタンが押されると、周囲を巻き込んで爆発するという仕組みで、事実上の死刑なのだ。

爆発は何回目のボタンで起きるのかは分からない。1回目で爆発を起こすかもしれないし、千回目かもしれない。もしかしたら爆発しないのかもしれない。すさまじい喉の渇きに水を飲まずにはいられない主人公だが、ボタンを押す一回一回が命の選択という状況で、彼は正気をなくしかけ絶叫する。

長い長い絶叫のあと、彼は気づく。「これは、地球の生活と同じなのだ」と。毎日、自分自身で死の原因を作り出す点は同じ。ただ、銀の玉は小さくて気になるが、地球のは大がかりで誰も気にしない。吹っ切れた主人公は、リズムをつけ歌いながら銀の玉のボタンを押し続ける。恐怖はもうそこにはなかった、という話である。

2018年が終わる。いわゆるスタートアップと呼ばれる企業を経営している私にとって、年末は「まだ生きている」ことに改めて感謝する時かもしれない。

スタートアップは、急激な事業成長を目指す企業の呼称だ。ビジネスモデルによって差はあるが、初期において先行投資的に赤字を出し、その後大きく利益を伸ばすという事業計画をつくる企業が多い。赤字を出している間、月間の赤字額をバーンレートと呼ぶ。

バーン(burn)とは燃えるという意味で、いわば資金が燃え尽きていくイメージだ。この数値を把握すると会社の寿命がはっきりする。どれだけの月数を生き延びられるかは、シンプルな計算式「銀行口座の残り金額÷バーンレート」で求めることができる。

毎月、現金が無くなっていき、完全に資金がショートする前に資金調達を行うが、調達できるかどうかは、それまでにどれだけの事業の進捗があったかどうかに依存する。これは「赤い星」の話なのだ。スタートアップの死は分かりやすく恐怖を感じるが、その他は大掛かりで当事者意識が薄くなり恐怖を感じない。

しかしスタートアップだろうと、大企業だろうと、人生だろうと本質は変わらない。私たちは毎日、銀の玉のボタンを押している。だとしたら恐怖に支配されるのではなく、来年も自分の意思で歌いながらリズムをつけてボタンを押そう。私たちは今「生きている」のだから。

[日経産業新聞2018年12月26日付]

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