「全員集合」透明性高める
新風シリコンバレー ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社長 ロッシェル・カップ氏
シリコンバレーの企業では生産性の低い定例会議をできるだけなくす傾向が強い。その中で最近、脚光を浴びているのが「オールハンズ(all hands)」と呼ばれる会議だ。海事用語の「all hands on deck!」(総員、甲板へ!全員緊急集合)を縮めたもので、全従業員を呼び集める会議を指す。

社長が自らすべての従業員に直接訴える好機と評価されている。グーグル、フェイスブック、リンクトインをはじめ、シリコンバレーの企業で毎週必ずと言えるほど、この「全員集合」会議が開かれている。やり方として、本社では同一の場所に集め、他の拠点では従業員がビデオ会議に参加する形で進められる。
全従業員を集める時間的価値を考えると、かなりの投資だ。期待されている効果は、会社の大切な動向を伝達する、会社の目標との強い関係性を感じ取ってもらう、従業員の疑問に社長がきちんと答える――などだ。知的労働者が働くシリコンバレーの企業では、情報の共有と企業戦略との一体性の維持が非常に大切なので、全員集合型の会議の優先度は高くなる。
1回の会議で複数の目的の達成を目指すのが普通だ。グーグルの場合、前の週に付け加えられた最新の動向、新商品の展示説明、新入の従業員の歓迎と激励、従業員からの質問に30分程度で答える、などで構成されている。一般的に、この型の会議で触れた方がいいのは、(1)会社および従業員の成功や功績への称賛(2)会社のミッションや戦略と優先事項について経営者と従業員の意見の一致を図る(3)社長との質疑応答の機会を提供する――などだ。
社長への質問は従業員の誰からでも、どんなテーマでも可能だ。全部が答えやすいとは限らない。会社の方針と企業戦略への戸惑いや従業員が抱いてきた不満が表明されることもある。これらに答えるのは簡単ではないが、正直に答えることで会社内の透明性を高め、社長への信頼も増える。
その場でランダムに従業員の質問を受ける会社があるし、アプリなどを使って事前に受け付ける会社もある。フェイスブックの場合、自社の商品である「グループス」の投票機能を生かして従業員の誰もが匿名で質問できる。他の従業員は開示された質問を見て、最も重要だと思うものはどれかを選んで投票できる。
会議は会社にとって難しいと思われるテーマに積極的に対応していく場にもなる。最近、グーグルが中国政府による検閲を可能にする検索エンジンを開発していると報道され、従業員から反発が起きた。その際、経営最高責任者(CEO)のスンダル・ピチャイ氏が全員集合会議で従業員の不安に応えた。昨年のウーバーテクノロジーズのセクハラ問題が明らかになった時にも全員集合会議を開き、取締役が全従業員に会社の対応方針を説明した。
無味乾燥に進めるのではなく、ユーモアも欠かせない。積極的に冗談を言う社長も少なくない。社長と従業員の間の距離を少しでも縮めるのが狙いだ。
[日経産業新聞2018年12月25日付]