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APECが映した国際協調の危機

アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議がパプアニューギニアで開かれた。経済・安全保障の両面で覇権争いを演じる米国と中国の対立が深まり、首脳宣言を採択できずに終わった。

事は米中やアジア太平洋地域の問題にとどまらない。国際協調体制そのものを危機に追いやる深刻な事態である。両国は一刻も早く緊張緩和の道を探り、世界の安定に責任を果たすべきだ。

米中間の覇権争いが影

17~18日のAPEC首脳会議では、米中が通商問題などで衝突した。不公正な貿易慣行の是正を迫る米国と、自国優先の保護貿易に反発する中国がやり合い、首脳宣言の文言を調整できなかった。

両国は激しい貿易戦争のさなかにある。米国は知的財産権の侵害を理由に、中国からの輸入品の半分に制裁関税を課し、中国は報復措置で徹底抗戦してきた。

中国は広域経済圏構想「一帯一路」やハイテク産業の国家育成戦略「中国製造2025」を通じ、米国の経済覇権に本気で挑み始めた。これを力で封じ込めようとする米国との対立は根深い。

軍事覇権を巡る思惑も見逃せない。南太平洋地域は米中がせめぎ合う安全保障の最前線だ。中国は議長国パプアに加え、フィジー、トンガ、バヌアツなどに巨額の経済支援をしてきた。港湾施設建設は中国の海軍力整備とも関係するといわれる。

米国はアジア太平洋地域の米軍の分散展開を進める。オーストラリアのダーウィンには海兵隊を駐留させた。米豪連携による対中シフトが機能しなければ、米中の安保バランスの変化は避けられない。米軍などが南シナ海で続ける航行の自由作戦にも影響する。

「新冷戦」とも呼ばれる米中の様々なあつれきが、APECの場で先鋭化したと言える。首脳宣言の文言づくりで折り合わなかったのは、双方がいまは譲らないという姿勢を国際社会に印象づける狙いもあるのだろう。

だが二大経済大国の対立を放置することはできない。米中の貿易戦争が長期化すれば、世界経済の回復を妨げる恐れがある。

国際通貨基金(IMF)によると、米国の制裁関税が自動車にも拡大し、金融市場の混乱まで誘発した場合、2019年以降の世界の成長率を最大0.8ポイント押し下げる。米国の金利高や新興国からの資金流出などで脆弱性を増す世界経済に、不必要な負荷をかけるべきではない。

軍事面でも不測の事態を招きかねない。中国人民解放軍の軍艦は9月末、南シナ海で航行の自由作戦にあたっていた米軍艦に異常接近した。両国の緊張状態が偶発的な衝突のリスクを高めたのだとすれば、深刻な問題である。

米中の対立が解けず、国際社会の統治に空白が生じかねないのも懸念材料だ。両国がともに参加するAPECや20カ国・地域(G20)の首脳会議が機能不全の状態に陥れば、金融危機やテロの封じ込めといった地球規模の問題に対処するのが難しくなる。

米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席は、11月末にアルゼンチンで始まるG20首脳会議に合わせて会談する見通しだ。まずはその場で両国の摩擦緩和に努力しなければならない。

貿易戦争の回避が先決

急ぎたいのは貿易戦争の回避である。米国は一方的な制裁を撤回し、中国との対話を通じて問題を解決すべきだ。知的財産の侵害だけでなく、過剰な産業保護や外資参入の制限を改めない中国の罪も重い。報復一辺倒の姿勢で臨むのではなく、不均衡の是正に協力できる余地を探ってほしい。

中国は摩擦の解消に向けて、142項目の行動計画を提出した。トランプ氏は満足していないというが、こうした緊張緩和の糸口を無駄にしてはならない。

ペンス米副大統領は米中首脳会談で、南シナ海問題も議題にする意向を明らかにした。APECで起きたことは、米中の経済的なあつれきにとどまらず、安全保障上の利害をかけた対立であることを強調した形だ。こちらも何とかして打開策を探る必要がある。

安倍晋三首相が担うべき役割もまた大きい。米中に制裁や報復の自制を促すだけでなく、APECやG20の枠組みも立て直し、保護貿易の封じ込めに主導権を発揮してもらいたい。

米中関係が日本の安全保障体制に与える影響も極めて大きい。日米豪などで共有する「自由で開かれたインド太平洋」という理念を世界にどう広めるか。安倍首相にはその努力も求めたい。

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