人間の補完としてのAI
新風シリコンバレー WiL共同創業者兼CEO 伊佐山元氏

2018/11/23 6:30
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人工知能(AI)、機械学習、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、ホームIoT、自動走行車、ドローン輸送――。何かと技術の話題が多いが、これらはすべて我々の社会を徹底的に効率化するために、人間の担っている作業を機械やコンピューターに代替させる発想で進化している。

1997年東大法卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2003年から米大手VCのDCM本社パートナー。13年8月、ベンチャー支援組織のWiL(ウィル)を設立。

1997年東大法卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2003年から米大手VCのDCM本社パートナー。13年8月、ベンチャー支援組織のWiL(ウィル)を設立。

単純労働や機械が代替できる作業から人間を解放し、より付加価値の高い仕事にシフトしていく考え方は経済合理性を考えると不可欠だ。身近な話であれば、子供たちの学校や習い事への日々の送り迎え、朝昼晩の食事の準備も機械が安全にできれば、世帯の生産性が劇的に向上することが期待できる。人口減少社会を迎える日本には朗報だ。創造性の高い活動や、人と人のコミュニケーションによる信頼関係をベースとするようなビジネスは、今後ますます発展するだろう。

他方、究極の自動化社会には、今顕在化していない大きな危険もはらんでいる。シリコンバレーの我が家の周辺では日常の風景になった自動走行車も、無事故で快適という理想とは少し異なる未来像が見えつつある。

初心者ドライバーのように慎重な自動走行車と、勘と経験で運転する人間の運転する車と混在する生活は、想像以上にストレスの多い環境だ。こちらは急いでいるのに、なかなか右折しないロボットカー。自動走行の車同士の事故は起きないかもしれないが、人間の運転している車がまどろこしい自動走行車にぶつかる事故は増えるだろう。渋滞も減るどころか、増えそうだ。

自動で動く車にしてもソフトウエアにしても、どんな状況になると人間がオーバーライド(手動運転)できるかということが明確になっていないと、自動化されたシステムと人間の操作のコンフリクトが発生し、事故が起こるリスクもある。先端技術が我々を快適にするはずが、想定していない事故や不安を増やすとしたら、何とも皮肉な話である。

技術は今後も世界を便利に、快適にするだろうが、それを生み出した人間が技術に翻弄されるようなことになれば、それこそチャップリンの「モダン・タイムス」の現代版だ。

最近は、AI(アーティフィシャルインテリジェンス)が人間を乗っ取るという世界観ではなく、技術は人間の補完に徹するべきだという「IA(インテリジェンスオーグメンテーション=人間知能の補完)」の考え方も増えている。どこまで技術による効率化や自動化を許すべきかという議論は奥深い。

スマートフォン(スマホ)なしでは旅行もできない。グーグルマップがなければ方向もわからない。人の名前も電話番号も覚えられない。人間の未来像がそうであっていいはずがない。我々の生活において、技術はあくまで補助的な位置付けとし、依存しすぎない距離感を維持することが、健全な姿であると考えている。たまにはスマホのないアナログな生活をしてみるのも良いかもしれない。

[日経産業新聞2018年11月20日付]

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