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温暖化「1.5度」目標も視野に COP24に向け動き急

Earth新潮流 日本総合研究所理事 足達英一郎氏

ブラジルで10月28日、大統領選挙の決選投票が行われ「ブラジルのトランプ」の異名を持つジャイル・ボルソナロ下院議員が新大統領に選出された。ボルソナロ氏は選挙運動中、米国のトランプ大統領に倣って温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を主張していたが、投票日直前になって公約を撤回。「協定にとどまる」と記者団に述べたと伝えられている。パリ協定を支持する関係者は、ひとまず胸をなでおろしているに違いない。

1997年に採択された京都議定書以来、18年ぶりに気候変動枠組条約加盟の196カ国全てが参加する枠組みとして合意されたパリ協定は、将来に向け一筋の光明をもたらした。一方、2020年以降の地球温暖化対策を定めるための詳細を詰める作業は依然、難航しているのも事実だ。

10月1~6日、韓国の仁川で気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第48回総会が開かれた。40年ごろに世界の平均気温が産業革命前に比べて1.5度上昇すると予測したいわゆる「1.5度特別報告書」などに関して議論し、政策決定者向け要約(SPM)が承認されるとともに、報告書本編が受諾された。

政策決定者向け要約の注目点は以下の4つ。

(1)人為的な活動によりこれまで約1度(可能性の幅は0.8~1.2度)温暖化したと推定される。現在の度合いで温暖化が続けば30~52年の間に1.5度に達する可能性が高い。

(2)気候モデルは現在と1.5度、及び、1.5度と2度の地球温暖化の比較において、地域ごとに気候特性に明確な相違が生じる。1.5度で抑え込めば、2100年までの海面水位の上昇は2度の場合よりも0.1メートル低くて済む。陸地では種の喪失や絶滅を含む生物多様性・生態系に対する影響が、2度よりも1.5度の地球温暖化の方が少なくて済む。

(3)地球温暖化を1.5度に抑えるモデルでは、世界全体の人為的な二酸化炭素(CO2)の正味排出量が30年までに10年水準から約45%減り、50年前後に正味ゼロになる。

(4)もし地球温暖化を1.5度に抑えられ、緩和と適応の相乗作用(シナジー)が最大化されて負の影響が最小化されるならば、持続可能な開発、貧困撲滅、そして不公平の低減を阻害するような気候変動の影響は回避しやすくなる。

一連の内容を見ると、今回の特別報告書は「1.5度の地球温暖化で抑え込むことの意義」をはっきりと示唆するトーンになっている。パリ協定の第2条も「世界全体の平均気温の上昇を産業革命前よりも1.5度高い水準までに制限するための努力を継続すること」をうたっていたが、同時に「2度高い水準を十分に下回るものに抑えること」という表現もあって曖昧さを残していた。

今回の特別報告書が公表された背景については、各国が目指すべき排出削減目標がまだまだ過少であることを明らかにし、米国の離脱表明の後で求心力を失いつつあるパリ協定の実行にかかわる議論を再活性化させる狙いがあるとする見方がある。一方、こうした高いハードルを示すことは、各国の排出削減努力そのものの意欲を減退させてしまう逆効果の方が大きいとする見方もある。いずれにせよ、パリ協定の行方に今一度、関心を払う好機であろう。

日本で見聞きする限り、今回の米国中間選挙でパリ協定が政策議論のテーマになった形跡が極めて薄いのは甚だ残念だ。12月3~14日には、ポーランドのカトヴィツェで第24回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP24)が開催される。パリ協定の実効力を左右する詳細ルールがどこまで詰められるかに注目したい。

[日経産業新聞2018年11月9日付]

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